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デジタルツールを活用した効果的な医薬連携について

デジタルツールを活用した効果的な医薬連携について

デジタルツールを活用した効果的な医薬連携について

昨今、「医薬連携」という、診療所と薬局で密に情報交換を行う体制を整備し、患者さんにより良い医療を提供しようという取り組みが進められています。例えば、処方薬のスムーズな提供や、一歩踏み込んだ服薬指導ができると期待されています。今回は、医薬連携の現状や、現場でどのようなデジタルツールが活用されているのかを、医療法人嘉健会「思温病院」の狭間研至理事長に伺いました。

狭間先生は「一般社団法人 日本在宅薬学会」の理事長でもあり、「ファルメディコ株式会社」の代表として、医学・薬学とITを融合した新たな医療環境をつくることにも尽力されています。

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「ニーズ」がないことが医薬連携の問題点

――医薬連携の現状を教えてください。

10年前と比べると少しずつ進んではいますが、「まだまだ」というのが正直なところです。積極的に取り組もうとしている病院もありますが、やはりセクショナリズムがネックとなり、うまくいかないケースも見られます。

また、病院内という同一の施設内なら情報共有もしやすいのですが、事業所が異なる場合は、情報共有がスムーズに行われないこともあります。「患者さんの情報は個人情報なので教えられない」と、誤った認識で情報共有を拒むということもありました。

――さまざまなデジタルツールが登場し、情報共有の環境が整いつつあっても、医薬連携はなかなか進んでいないのですね。

一般企業でもそうですが、企業体が異なると指揮命令系統も異なりますから、そう簡単には連携は取れません。「うまく連携してより良い医療を提供しよう」という考えへの理解は進んでいるものの、現場レベルでは思ったような成果は出ていないのです。

そもそも医薬連携が進まないのは「必要性」の問題が大きいからだと考えています。医師はオーダーシートのとおりに薬剤師が薬を出してくれればそれでよく、薬剤師も指示どおり薬を渡せばそれでいい。つまり、「一歩踏み込んだケアを行う必要」がお互いにないため、連携が進まないのです。

薬剤師を「外注」として扱っている限りはこうした現状は変わりにくく、極端な話ですが最終的に自動で処方する機械に任せたり、ドローンで運んだりといったことでもよくなってしまうかもしれません。

法改正など潮目が変わりつつある

ただ、ここ10年で少しずつ潮目は変わってきています。そのきっかけの一つが、薬学部が4年制から6年制になったことです。薬剤師の資格を得るためには6年間学ばないといけなくなりましたが、その影響で今まで以上に臨床的な活動をする薬剤師が多く育つようになりました。

また、2020年の改正薬機法で「服用後のフォローと医師へのフィードバック」が薬剤師の業務であることも明記されました。このことは医薬連携に大きな影響を与えると考えています。薬剤師と医師とが併走し、患者さんを診ることが求められるため、医薬連携も今までとは異なるレベルで進んでいくと思われます。

新しく開業する先生の中には訪問診療を組み合わせている方も多くいますが、訪問した先で見たことのない薬が処方されているというケースも少なくありません。そうした場合は、薬剤師の力は必要不可欠です。特に開業医となると若い世代の方が多いでしょうし、薬剤師に意見を求めるなどして知識を深め、より良い医療が提供できるように試みてもらいたいですね。

医薬連携で求められるデジタルツールとは

――医薬連携を進めるためには、どのようなデジタルツールが必要になるでしょうか?

患者さんのバックグラウンドデータが共有できるツールが重要になります。院内であれば電子カルテを共有すればいいのですが、開業医の場合は院内に薬剤師を雇うケースは少なく、ほとんどは外部の薬局と提携することになります。そうなると、クリニックのデータベース、薬局のデータベースのほか、訪問看護など複数のデータベースを共有するツールが必要です。

現在、マイナンバーカードを使ったオンラインでの資格確認システムの導入が予定されていますが、この仕組みを基に患者さんの診療データの一元化も検討されているようです。保険診療のみが対象ですが、このシステムが実現すると、患者さんの診療記録が一括で確認できるようになり、共有もスムーズに行えるようになります。

ただ電子カルテを共有するだけでは十分な患者支援は行えません。一歩踏み込んだ支援を行うには弱いのです。そのため、診察のベースとなるデータに加え、血圧、体重、心拍数といったバイタルサインや、「今日疼痛(とうつう)があった」などの日々の情報も必要となります。

――患者さんのその日の体調や細かな変化が分かれば服薬指導も効果的に行えそうですね。

訪問看護師さんは、在宅診療をしていない日に訪問した際に、こんな変化があった、こんな症状が出ていたなど、状況が分かる写真を添えて報告してくれることが一般的です。患者に寄り添った支援を行うにはこうした日々のデータも大事です。とはいえ、医師が送られてきた全ての資料を確認することは現実味も薄いので、チームで情報を共有、問題解決には対応に適した人が実行するなど、スムーズに対応する仕組みが必要でしょう。

こうした患者の日々の状態をすり合わせることは、病院ではカンファレンスの形で行われていることです。しかし、開業医の場合は他職種連携のため簡単に行うことはできません。異なる事業所のスタッフ同士が一堂に会し、情報のすり合わせや今後の方針を決める機会をつくることも重要になるのではないでしょうし、こういった場面でオンラインやICTの活用は非常に効果的でしょう。

ウェアラブルデバイスの進化が医薬連携にも貢献

――デジタルツールの発展は医薬連携にも大きな影響を与えそうですね。

例えば、ウェアラブルデバイスは医薬連携において重要な役割を担うと思います。現在、患者さんの血圧、体重などの情報を非侵襲的な方法で取得し、データを自動的に送信するといった、セルフチェック用のウェアラブルデバイスが登場しています。

これまでも遠隔で患者の状態を知るためのシステムはありましたが、データの送信のためには患者さんに何らかのアクションを起こしてもらう必要があり、その手間がネックでした。しかし、ウェアラブルデバイスがさらに進化していけば、知らない間に測定、送信してくれるような、ストレスフリーなセルフモニタリングが可能になるでしょう。データが蓄積すればするほど診察や投薬指導もより効果的に行えるはずです。

――装着するだけで健康診断が行えるなど、便利なデバイスも生まれそうです。

そうですね。医療用として使うとなると医療機器としての認定などクリアすべき課題は多くありますが、さまざまな機器が登場するでしょう。10年前は「こんなのがあったらいいな」と思っていたものが、今では実際に使えるところまで進んでいます。これから先、もっと驚くような機器が登場する可能性もありますね。

オンライン診療の解禁で医療は大きく変わる

――オンラインでの診察や服薬指導が解禁となりましたが、医薬連携の重要性は増すでしょうか?

医療は対面が原則とされてきたため、その前提が変わると、医療の在り方そのものが変わる可能性は十分にあります。現在の医療は投薬治療が基本であることを踏まえると、病気を特定するまでは来院して診断する必要はありますが、それ以降は病院に来る必要性が少なくなります。そうなると医薬連携はより重要になるでしょう。対面での診察でないと、どうしても不安を感じる患者さんもいます。そこで、医師と薬剤師が連携し、服用後のフォローについては対面・オンラインを組み合わせて薬剤師がきめ細かく行うことで、安心してオンライン診療が受けられるようになるかもしれません。

――医療そのものが大きく変わると、医師側も対応を変える必要がありそうです。

既存の考えでは対応できなくなるため、頭を柔軟に働かせ、新しい時代に即した対策を行わないといけないでしょう。例えば、オンライン診療が当たり前になると、現在の診療圏調査の意味合いも大きく変わります、病院の立地や開業のアプローチなど今までの常識が崩れまするかも知れません。クリニックの経営スタイルも変わる可能性があり、場合によっては保険外診療のニーズに応えていく必要もあります。

ニーズが変われば、求められるツールも変わります。例えばこれまではあまり使われなかった機器が、有効になることも考えられます。内装や導入する機器も、従来は当たり前だったものが必要なくなる、ということもあるでしょう。

――これから開業する場合は、新しい時代に対応したビジョンが必要なのですね。

今までの方法がうまくいくとは限りません。法制度の改正や情報通信機器の発展で、ひと昔前はできなかったことが可能になりました。これまでの成功例が通用しなくなるため、今までの「常識」にとらわれず行動することが求められるでしょう。型にはまった開業パターンは考えないほうがいいのかもしれません。

ただ、人と違ったことをするのは大変です。心折れそうになることもあるはずです。そこで大事にしてほしいのは、何のために医師になったのか、どんな医療を提供したいのかという気持ちです。そこを忘れなければ、道なき道も歩んでいけるはずです。

――ありがとうございました。

「医薬連携」の現状と課題、また医薬連携におけるデジタルツールの寄与についてお話を伺いました。患者さまにより良い医療を提供するために進められている医薬連携ですが、課題はあるものの、ここ10年で潮目が変わり、少しずつ進んでいるとのこと。特に2019年の薬機法改正は、大きな追い風になる可能性があるとのこと。開業医の場合、薬局との連携は必要不可欠です。共に協力して患者さんを見守るためにも、情報共有ツールを効果的に使用したいですね。

狭間研至先生 profile

医療法人嘉健会 思温病院理事長・院長。ファルメディコ株式会社代表取締役社長。

1995年、大阪大学医学部卒業後、大阪大学医学部付属病院、大阪府立病院(現:大阪府立急性期・総合医療センター)、宝塚市立病院で外科・呼吸器外科診療に従事。2000年、大阪大学大学院医学系研究科臓器制御外科にて異種移植をテーマとした研究および臨床業務に携わる。2004年、同修了後にファルメディコ株式会社を創業。現在は、医療法人思温会など在宅医療の現場で医師として診療も行うとともに、一般社団法人薬剤師あゆみの会、一般社団法人 日本在宅薬学会の理事長として薬剤師生涯教育に、熊本大学薬学部臨床教授・京都薬科大学客員教授として薬学教育にも携わっている。

取材協力:ファルメディコ株式会社

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