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遠隔診療の現在と高度化に向けて求められるデジタルツールの機能

遠隔診療の現在と高度化に向けて求められるデジタルツールの機能

新型コロナウイルスの影響で大きく注目されることになったオンライン診療。実際にクリニックに行かずとも診察が受けられ、処方箋を出してもらえるということで、今後さらに活用されることが見込まれます。今回は、こうしたオンライン診療をはじめとする「遠隔診療」について、現状や今後大きく発展するために求められることなどを、日本遠隔医療学会代表理事・会長である、鳥取大学医学部附属病院の近藤博史教授に伺いました。

遠隔医療の歴史

――日本の遠隔医療の歴史を教えてください。

日本では1990年代に遠隔病理診断、遠隔放射線画像診断が始まりました。臨床病理医の数は少なく、地方ではその数はさらに少なくなります。例えば胃がんの手術を行う病院で臨床病理医がいない場合、断端の確認ができないので最小限の切除域を決めることが困難になります。そのため、テレビ電話を使って、病理診断ができないかという話からスタートしました。その後、2000年にこの遠隔病理、遠隔放射線診断に診療報酬が設定されました。

現在は多くの医療機関で用いられている電子カルテは、1999年に「真正性」、「見読性」、「保存性」の3つからなる「電子保存3原則」が作られ、導入がスタートしました。2000年から電子カルテ導入の補助も開始されています。

その後、遠隔医療や電子カルテの導入がある程度進んだ2009年に、国が費用を投じて日本の医療を再生させようという取り組みである「地域医療再生基金」がスタートしました。その際、医療再生基金を活用した「地域医療連携」が進められるようになりました。

地域医療連携では、急性期病院と慢性期病院との機能分化が行われ、患者の病院間移動が必須になり、患者情報の共有など、病院間の連携も進められました。病院間の連携で用いられる電子紹介状や添付資料のデジタル配信については、2016年に診療報酬が加算されるようになっています。

――オンライン診療はどのような流れを経て今に至るのでしょうか?

「オンライン診療」は、2010年頃からテレビ会議システムを使った実証実験が行われ、離島など医師が少ない場所などで利用されるようになりました。オンライン診療の診療報酬は2018年になって設定されますが、当時は診療報酬が低く、また慢性疾患限定でした。加えて、電子処方箋が普及していなかったため、結局オンライン診療を受けても、処方箋を取りに行くないといけないなどネックが多く、普及は進みませんでした。

オンライン診療は尻すぼみになりつつありましたが、今回COVID-19の影響でオンライン診療に初診と処方箋のFAX送付が適用されるなど大きく状況が変わり、オンライン診療の需要が増しました。なお、2019年にオンライン診療ガイドラインが修正され、より具体的な内容、方針が定められました。これによりオンライン診療の普及体制が整いつつありました。

オンライン診療の魅力と問題点

――オンライン診療の新しい方向を教えてください。

専門医の直接診療に使われています。大学病院でもオンライン診療がスタートしています。例えば、順天堂大学医学部附属順天堂病院の脳神経内科では、パーキンソン病の外来でオンライン診療を活用しています。機器を含めたサービスに月額料金を支払う形ですが、病院まで行かずに診察が受けられ、病院側も患者さんの対応に当たるスタッフが減らせるなどのメリットがあります。

東北大学病院のてんかん科では、専門医が患者と対話し、診察できる仕組みを設けています。また、御茶ノ水にある瀬川記念小児神経学クリニックは、全国からまれな神経疾患の患者さんが訪れています。こちらでは、遠方の患者さんが診察を終えて家に帰ってからも、オンラインで診察するようにしています。

機材を使った専門医の診療では、循環器病研究センターが新生児の心臓大血管超音波検査をオンラインで行っています。心臓血管に異常のある患者に対し、ボタロー管の閉鎖を止める薬剤投与の判断を、オンラインによる超音波検査をもとに行うというものです。オンラインなら遠隔地でも専門医がタイムリーに対応できるのがメリットです。このように専門外来のオンライン診療のニーズはあり、今後さまざまな活用が期待されています。

――オンライン診療の問題点としてはどんなことが挙げられますか?

問題の報告があったものでは、問題のある痩せ薬の処方を行った診療所が患者の質問に対応しなかった例がありました。登録制にするなど対応が求められるでしょう。

ほかには、あまりに遠方のオンライン診療も問題が起こる可能性があります。診察を受けている医療機関があまりに遠い場所だと急変時に行くのが困難となります。患者の近くの連携できる医療機関を用意しておくことが必要です。

今回、オンライン診療での初診が認められましたが、今後の調査でさまざまな問題点と対処方法が検討されると思います。

技術の進化がオンライン診療の欠点を補う

――オンライン診療はまだ不安な点もありますが、今後どのような発展を遂げるでしょうか?

対面診療に比し、欠ける点が指摘されていますが、技術の発展でこれを補い、上回ることも夢ではないと考えています。

医師は五感で診ています。味覚・臭覚はできませんが、視覚ではテレビ会話システムを活用すれば補える可能性があります。また、皮膚科などではダーモスコピーを使うことで患部を拡大して見ることができます。もちろん原因菌の診断は対面診療でないと検査できません。

診察では皮膚の温度や乾燥具合も重要な判断要素となりますが、一部はサーモグラフィーを使うことでカバーできます。肝臓や脾臓(ひぞう)の腫れや大きさを調べるには、超音波検査機が活用できます。デジタル聴診器の登場で心音や呼吸音が調べられます。

――オンライン診療は今後どのような形になるでしょうか?

検査機器がEMR(Electronic Medical Record)にオンラインで接続されており、患者自身や家族などの支援者が操作できればそれで診察が行えるようになるわけです。デジタル聴診器も数万円の価格になっていますから、将来的には医療機関でなくとも、例えば、自宅以外にも避難場所や公的場所、調剤薬局に検査機器を設置し、そこで診察を行う、といったこともできるようになるかもしれません。

オンライン診療の機器自体へのAIの活用も進んでいます。例えば、AIを使って顔の映像から脈拍や血圧、体温を計測することや、歩行映像から神経疾患や四肢の痛み、音声から呼吸数を調べるなども可能になるでしょう。自動問診システムもAIによって今後大きく進歩すると考えられます。

――すでにスマートフォンなど手近なツールでバイタルチェックができるようになっています。

そうした「mobile health」の概念が、オンライン診療を広げると考えています。スマートフォンなどで毎日モニタリングを行えば、そのデータはオンライン診療で役立ちます。血圧、体重、体温を記録したり、ぜんそくなど病気がある場合はその症状を朝昼晩と記録したりするなどです。

最近では加速度センサーで運動量を測りますが、この情報と位置情報で生活の動きを調べるといったことも行われています。生活の動きは精神疾患を調べる際の大事な情報になり、うつ病の診療に役立ちます。マイクや振動から睡眠状態を把握するといった、睡眠データの活用もあり、個人的に面白いと思っています。睡眠データを基に子供の生活指導を行っているところもすでにあります。

ほかには、COVID-19で注目されたパルスオキシメータでSpO2を測定、電極の付いた下着で心電図や筋電図を測定するといったことも行われており、今後はこうしたデータを複数組み合わせた「Multisensor Monitoring(マルチセンサー・モニタリング)」が重要になると考えられます。運動をしていないのに体温や脈拍が上がっている場合は感染症の疑いがあるなど、1つのデータを見るだけでは判定が難しい病気の発見、また複数のモニタリングデータを見ることで病気の早期発見などにつながります。また、計測結果に基づいて連絡・指示など、つまり適時な介入「timely intervention(タイムリー・インターベンション)」が可能になるわけです。

モニタリングデータに異常があった場合は自動的に医療施設に連絡したり、診療予約を行い、スムーズに診察ができたりする機能が登場するなども考えられます。

海外はオンライン診療にどう取り組んでいる?

――海外のオンライン診療はどのようになっているのでしょうか?

海外でもオンライン診療について積極的に取り組んでいます。例えばヨーロッパでは「Horizon 2020」という、革新的開発をサポートする大規模なプロジェクトがあり、その一環として医療分野でもICTを活用した機器の開発や、その標準化が進められています。

また、「mobile health」の実現など、世界的に「医療のDigital Transformation」が進んでいます。こうした医療のデジタル化はニーズの変化も大きいと考えられます。今の医療は感染症の治療から生活習慣病への対応へと変わりました。糖尿病や高血圧などの生活習慣病では「未病での対策」が重要となるため、健康な状態で対応できる「mobile health」がより注目されるようになったのです。ただし、今回のCOVID-19によって感染症であってもオンライン診療は有効であることが分かり、活用の幅は今後さらに広がりそうです。

――海外では医療のデジタル化にどのようなアプローチをしていますか?

「医療のDigital Transformation」の世界的な動きを見ると、患者さんに診療情報を公開する取り組みが進んでいます。例えばHPで検査情報を開示したり、携帯電話でカルテ情報が参照できたりといった内容です。

医療情報のEMRの利用・活用方法は国・地域によって異なります。例えばヨーロッパ各国では、EMRは「mobile health」と連携する形での活用が進んでいます。一方、同じヨーロッパでもイギリスや北欧などでは、国がEMRからEHR(Electronic Health Record)を作って管理しており、その情報を匿名化し、国内外の医療機関や製薬会社に販売しています。

アメリカでは医療機関が持つEHRから個人向けのPHR(Personal Health Record)を作り、さらにこのPHRを基に「Patient Centered Medicine(患者中心の医療)」という取り組みを進めています。例えば、皮膚画像をAIが診断するというシステムがあるのですが、これを医師ではなく患者さんが使ってもいいとFDAが認定しています。つまり、医師を必要としない診察の仕組みが登場しているのです。

医療のデジタル化で大事なのは「標準化」

――医療のデジタル化を進める上で重要なことは何でしょうか?

デジタル化においては「標準化」が重要です。例えば、医療の地域連携をしようとしても、それぞれの医療機関で扱っているデータの規格がばらばらでは使えません。そのため、コンテンツ自体の標準化をする必要があるのです。

鳥取県では私が主導する形で、日本と世界の標準規格を用いて画像データを含めた標準化を進めました。その結果、各病院のデータを横断的に検索することが可能となり、例えば患者さんがA、B、C病院で診察を受け、A、B病院でどのような検査結果が出たのか、B、C病院でどんな薬を処方されたのかなどの情報がそれぞれの病院でも確認できるようになっています。画像データについても標準化を図ることで別の病院でも確認可能です。

――なぜ標準化しないといけないのでしょうか?

保険コードは保険申請に用いるために大事なものなのですが、数年に一度変更されるため「保存に向かない」のです。データベース化するのなら、「HOT」や「JLAC10」といった変更されない標準化コードを用いるべきなのですが、紙の時代から保険コードを使うことが当たり前だったこともあり、統一が進んでいません。薬剤、検査結果等がコード化により正確に分類され、標準的データ形式で集められ、迅速にデータベース化されると、薬の効果や副作用などが正確に統計処理され、証拠に基づいた医療(Evidence based Medicine)を迅速に展開できるようになるのです。生活習慣病対策だけでなく、COVID-19のような感染症対策にも医療では重要です。

もちろん、診療データを扱う上で「セキュリティー」面も重要です。特に情報漏洩には「アクセス認証」を重要視すべきで、医療のデジタル化を進めるためには、セキュリティーの「基本」を改めて見直すことも大事なのです。

――ありがとうございました。

遠隔診療の現在と今後、またデジタル化の進歩のために必要なデジタルツールや課題などを伺いました。新型コロナウイルスの影響でオンライン診療の需要が急激に増しており、今後加速度的に発展する可能性もあります。しかし、デジタル化をより進めるためには、データの標準化や、効果的なセキュリティーの構築も必要不可欠。国の指示を待つのではなく、クリニック単位でもコードの確認や修正、標準化に取り組む価値は十分にあるといえるでしょう。

近藤博史先生profile

近藤博史
鳥取大学医学部附属病院医療情報部部長、教授。鳥取大学総合メディア基盤センター米子サブセンター長。日本遠隔医療学会代表理事・会長。
1981年大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部附属病院、現・徳島大学病院医療情報部を経て、2001年から鳥取大学医学部附属病院医療情報部部長に就任。100%電子カルテ運用を国立大学病院で初めて開始。2008年には電子カルテ基盤に日本で初めてシンクライアント基盤を導入し、2010年からは地域電子カルテ共有システムにシンクライアント基盤と仮想サーバを導入。2012年から地域電子カルテ共有システムに日本標準のSS-MIX2と世界標準のIHE-XDS/XDS-Iを導入した。