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過疎地域医療の現状と課題、デジタル医療はどのように活用されている?

過疎地域医療の現状と課題、デジタル医療はどのように活用されている?

Dr.GON 診療所

山間部や離島など、交通条件や社会条件に恵まれない地域は医療の確保が困難です。こうした過疎地域の医療は現在どのような状況にあるのでしょうか? また、過疎地域ではデジタルツールの活用による医療改善も期待されていますが、課題も多いといいます。過疎地域医療の現状と課題、デジタル医療の活用について、沖縄県宮古島のドクターゴン診療所・泰川恵吾院長に伺いました。

宮古島をはじめ過疎地域医療の現状は?

――ドクターゴン診療所のある宮古島の医療について教えてください。

私が故郷である宮古島に戻った22年前は島の医療体制が整っておらず、苦労することが多くありました。しかし、現在は心臓手術以外は対応できるなど医療体制が整ってきており、そこまで医療に困窮していないのが現状です。

――22年前はどのような状況だったのでしょうか?

ドクターゴン診療所を開いた地域はもともと無医村でした。人口3300人が住んでいますが、これだけの人口に対して医師の数はゼロだったのです。宮古島だけでなく周辺の島も同じで、医療体制は全く整っていませんでした。そこで、予防接種や検診が受けられないという人のために少しずつ体制を整えていき、同時に島を挙げて改善に取り組んだことで、宮古島の医療環境は大きく向上しました。

――先生は周辺の島々にもジェットスキーで診察に向かわれるそうですね。

はい、現在は宮古島だけでなく周辺の島にも訪問医療を行うまでになりました。

――先生がいらっしゃる宮古島以外の過疎地域医療について、現状をどのように捉えていらっしゃいますか?

宮古島の医療体制は大きく改善されましたが、いまだに苦しい状況に立たされている地域も多くあります。特に問題なのが医療従事者不足です。沖縄の場合は、離島の医師が主人公のドラマが注目されたことが追い風になり、離島でも行きたいという医師が増えました。しかし、あまり人のいない地域には行きたがらない医師が多く、無医地区も少なくありません。

――人材確保が課題なのですね。先生はどういった方法で人を集めたのでしょうか?

私の場合は、できるだけマスコミに出演し、自分と当医療法人をアピールすることを意識しました。また、学会でも積極的に発表し、自分がどんな考えを持っていて、どんな取り組みがしたいのかを広めるよう努力したのです。そうすることで一緒に働きたい、この医療法人に入りたいと思ってもらえる人が増えました。

しかし、うまく人を呼ぶことができても、その地域に定着、居続けてもらうことが難しいのです。宮古島の場合も、飽きたのか嫌になったのか理由はさまざまですが、何年かすると離れていってしまいます。

――医療従事者が離れてしまうのを防ぐにはどうすればいいのでしょうか?

私の場合は、幸いにも人を集めることができ、宮古島以外にも鎌倉にクリニックを開くことができました。そのため、宮古島と鎌倉でスタッフを入れ替えるなどして環境を変え、医師のモチベーションを維持することに努めています。とはいえ、大事なのはコミュニケーションだと思います。人材確保も定着させるのも、しっかりとコミュニケーションを取り、課題解決の道を探るしかないでしょう。

――過疎地域ではほかにどのような問題がありますか?

「物流」の問題もあります。私の場合は鎌倉のクリニックから物資を持ち出し、宮古島に持っていくことができますが、こうした手段がないクリニックは「診療に必要なものが届かない」ということも少なくありません。へき地、特に離島地域では避けられない問題だと思います。

――船でしか運べない場合は物量も限られますね。

インターネットの発展でコミュニケーションについては解消されつつありますが、モノの問題は避けようがありません。特に台風など自然災害が起こるとより厳しい状況になります。これは島に限らず内地の山間部などでも同じですね。もしものときに備えておくしか対策がないのが現状です。

――新型コロナの感染拡大による医療の切迫も、過疎地域では課題になっています。

医療体制の整っている都心部の病院でも大きな問題になっていますが、へき地の病院は病床の確保も難しく、感染者が少数でも対応できません。施設の規模を考えると普段からキープすることもできませんし、ある意味で日本の縮図のようになっています。

1990年代後半からすでにネットワークシステムを構築

――過疎地域では、デジタルツールを導入することで、スムーズな医療の提供が期待されています。宮古島の先生のクリニックではどのようなデジタルツールを活用していますか?

現在宮古島のクリニックでは「Dr.Gon」という、もともと私が作った電子カルテを使用しています。VPN接続によってオンラインアクセスが可能ですが、通信が不安定な地域でも使用できるようオフラインでカルテ情報をアップデートし、後でデータベースとシンクロさせるという方法で利用できます。

――電子カルテを作ろうと思った理由を教えてください。

字を書くのが嫌いだったからです。名前と住所と電話番号を何度も書くのが嫌でした。私は救急救命医だったので、とにかく忙しい中で書類を書いている時間もなく、その中でいくつもある台帳に同じ患者さんの名前を何度も何度も書くのが無駄だと思いました。そこで、自分が救命ICU医長になった際に電子カルテの原型となるファイリングソフトを作りました。その後、このファイリングソフトを発展させ、「Dr.Gon」を作ったのです。

――「Dr.Gon」の活用例を教えてください。

宮古島のクリニックでは「Dr.Gon」を用いて、診療所、連携する医療機関や介護施設などをつないだネットワークシステムを構築しています。カルテ情報は各チームスタッフのノートPCで管理・共有しており、さまざまな連係情報の送信がスムーズに行えるようになっています。

地域に適したデジタルツールと活用法を探る

――過疎地域でデジタルツールを導入する際、注意すべきことは何でしょうか?

デジタルツールならなんでもよいというわけではなく、その地域の特徴に適したものを選ぶべきだと思います。例えば、今はクラウド型の電子カルテが当たり前になっていますが、「Dr.Gon」はクラウドではありません。そもそも最初に作ったときはクラウドなんてありませんでしたが、インターネット環境が十分に整っていない地域も多く、クラウドの電子カルテが役に立たないケースもあり得ます。

実際、私のクリニックのある場所はいまだにインターネット回線がADSLで通信速度も遅く、大規模なデータのやりとりは難しい状況です。また、離島の場合は台風など災害が起こるとネットワークが遮断されます。那覇と宮古をつないでいる光回線が切れてしまえば全てアウトです。何もできなくなります。これは離島だけでなく、ネットワーク環境が整っていない地域ならどこでも起こる可能性があります。

――確かにインターネットが使えない状況ではどうにもなりませんね。

ネットワークが途切れると役に立たないシステムは少なくありません。2011年に東日本大震災が起こった際、当時はクラウド型電子カルテは少なかったのですが、レセプトシステムが使えないことで診療が難航しました。私も気仙沼で医療支援を行っていましたが、携帯もつながらず、難しい状況でした。そこでスタンドアローンとネットワークの両方に対応できる「Dr.Gon」を何カ所かに設置し、現地の先生のサポートを行いました。スタンドアローンで利用できて助かったという声もありました。

今の人たちはネットワーク環境が整っているのが当たり前で、ネットワークのない世界が想像できません。過疎地域ではデジタルツールを活用することで効果的、効率的に診療が行えるようになるかもしれませんが、一方でネットワーク環境が途絶えるリスクも考えないといけません。もしものときに使えないのでは意味がないですから。

「Dr.Gon」の場合、診療所のサーバーにデータを置いていますが、各自のノートPCでもデータを共有しています。そのため、台風、津波など、もしものときは「Dr.Gon」の入ったパソコンを持って逃げるようあらかじめ指示しています。スタンドアローンでも機能するため、もしサーバー本体が駄目になっても、「Dr.Gon」が入っているパソコンが一台でも生き残っていれば、そのパソコンをサーバーに切り替え、機能させることができるからです。

――「もしも」に備えるのは、へき地に限らず、病院を経営する上では必要不可欠な視点ですね。

医療においては「どれだけ慎重に物事に取り組むか」が大事です。われわれは患者さんにとって最後のとりででもありますから、「何もできません」ではお話になりません。どれだけ備えても想定外のことは起こりますが、想定外のことが起こってもなんとか対応できるよう、普段から備えておくことが重要です。

院長だけでなく、スタッフも「いざというときに備える考え」を持つべきです。紙のカルテも手間がかかる、共有するのが難しいと敬遠されていますが、電子機器が何も使えなくなったときは紙に頼るしかありません。うちもスタッフは何度も宮古島で大きな台風を経験して「回線なんていつでも切れる」と分かっているので、患者情報のPDFを印刷したものを保管しています。

環境に即したデジタルツールを用い、もしものときに備えておくことで、医師は安心して患者に向き合えます。安心できる環境は人を引きつけ、人材確保につながります。適したツールを用いて環境を整えることは、へき地に限らずクリニックを運営する上でも重要だと考えています。

理想は会話内容を全て記録してくれるツール

――過疎地域だとやはり人手不足が大きな課題となりますが、どのようなデジタルツールがあれば人手不足が解消されるでしょうか?

例えばですが、電子カルテであっても結局はパソコンに向かって入力しないといけませんよね。それでは今までどおり手間もかかりますし、患者さんに真摯(しんし)に向き合うことができません。ですから、「診察中の会話全てを自動で記録してくれる電子ツール」があると便利かもしれません。もちろん患者さんのプライバシーなど問題は多々ありますが、一切入力する必要がなくなるのが究極ですね。

――診察以外の手間が少しでも減らせると、患者に向き合う時間も増えそうです。

ただ、結局は「人」です。診察するのも人ですし、デジタルツールを使うのも人です。患者さんはデジタルな存在ではない。アナログです。例えば最近では良性か悪性かを見分けるデジタル診断が注目されていますが、結局これも機械学習をさせるのは人間です。私の場合も自分の助けになるからと電子カルテを開発しましたが、コンピューターにできること、人間がすべきことをちゃんと分けて考えることが大事なのかなと思います。

――最後にこれから開業を目指す医師にひと言お願いします。

医療は「人と人」です。現在、診察をオンラインで行えるようになりましたが、医療の基本は見る、聞く、触れることです。開業するのであればこの基本を忘れないこと。また、開業してうまくいくと初心を忘れがちです。何のために医療に携わったのかをいま一度振り返りましょう。われわれは医療者。自分のためにという考えでは成り立ちません。利益が出ることが正義ではありません。利益が出ないことも悪ではありません。医療には医療の正義があります。これを心に留めておいてほしいです。

――ありがとうございました。


「ドクターゴン診療所」のある宮古島の状況、また同じような離島地域や山間部など交通条件の厳しい地域の医療現状を伺いました。インターネット環境の発展やデジタルツールの登場で人と人との距離は近づいたものの、それを扱う「人材不足」が相変わらず問題になっているようです。また、へき地におけるデジタルツールの導入においても、なんでもかんでも使うという考えでは、思わぬ失敗につながる可能性もあります。もし医療環境が厳しい地域で開業する場合は、人材確保だけでなく、その環境や状況に適したデジタルツール選びを慎重に行うようにしましょう。

泰川恵吾先生 profile

医療法人鳥伝白川会、ドクターゴン診療所理事長、院長。

1989年、杏林大学医学部卒業。同年東京女子医科大学第二外科入局。東京女子医大救命救急センターICU医長を経て、1997年に宮古島・伊志嶺医院で訪問診療を開始。2000年にドクターゴン診療所を開設。2004年に鎌倉診療所を開設。

取材協力: ドクターゴン診療所

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