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設計のプロに聞いた!新規開業の物件・テナント選びに重要なポイント

設計のプロに聞いた!新規開業の物件・テナント選びに重要なポイント

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クリニックの開業場所をどう選ぶか、迷う先生も多いでしょう。

エリアや家賃、面積、駅からの距離など、すべて希望通りな物件を見つけるのも難しいですが、運よく理想に近いテナントと出会える場合もあるものです。

現地を下見する際に気をつけるべきポイント、設計担当者との打ち合わせ内容など具体的なポイントを解説します。

※本記事に記載の情報は取材を行った2022年3月21日現在のものです。

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回答者:関根 裕司氏(有限会社アルボス/一級建築士事務所 代表)

1958年東京都生まれ、千葉大学工学部建築学科卒業。クリニックやクリニック併設住宅の設計を多く手掛ける。指名

出典:「世界一やさしいクリニック開業ガイド(エクスナレッジ)」(監修・著:関根 裕司)

開業エリアを絞り込む

開業場所として希望にあがることが多いのは次の3つ。それぞれのメリットを紹介しますので、ご自身が探しやすい開業場所を想定してみてください。

1. 土地勘がある場所

自宅、実家、現在勤務している病院のそばを選ぶ方が多いです。周辺に詳しいので市場性を把握しやすいほか、勤務病院で診療している患者さんを継続して取り込める可能性があるためです。

2. 立地、アクセスがよい

住民の生活動線上にある、交通が便利、十分な駐車場が確保できるなどがやはり人気です。バス停や駅が近くにあれば便利。駐車スペースが十分にあれば遠方からの集患にも有効です。

3. 推定患者数の見込みがよい

人口が多い、商業施設が近くにある、病診連携が取りやすいなどは患者の流入が見込めるうえに地域にも貢献します。

商業施設を訪れた人からもクリニックの存在の認知が期待できます。こうしたポイントを踏まえて、開業する希望エリアを絞り込んでいきましょう。

テナントか戸建てかを検討する

次にテナントとしてビルに入居するか、戸建てを選ぶかを検討します。

テナントビルへ入居して開業するメリットは、駅前や街中など人が集まりやすい場所にクリニックを構えられることです。通行量が多ければ集患が有利になる可能性があります。

また開業にかかる資金は、戸建て型に比べて少なくて済むと言われます。テナント型に入居する一般内科で必要な資金は6千万円程度と想定されますが、戸建て型は土地取得だけで1億円を超える場合もあり総額は2億円前後かかることも。

コストが低いテナント型だが追加費用がかかることも

ただテナント型はオフィスや店舗が周辺に多いので、看板を出しても視認性が悪く認知が高まりにくいという課題もあります。

クリニックの入居を前提としていないビルでは、

  • 電気容量
  • 給水口径
  • 重量計算
  • 搬入口の確保
  • インフラの改造
  • 医療機器の利用制限
  • など、への対応でさまざまな追加費用がかかる可能性があります。

    ビルの条件にクリニックを適合させられるかが重要で、条件次第では開業にふさわしくないという結論になることもあるでしょう。

    関根氏によると、テナントスペースの内装コストの相場は以下の通りです。

  • もとが事務所だった…坪単価35~50万円程度
  • スケルトン状態(床、壁、天井がむきだし)…坪単価50~90万円程度
  • スケルトン物件ではインフラの改造や防災設備などの工事が必要です。

    戸建て開業のメリット、デメリット

    一方、戸建て開業では院長が希望する広さや規模を設定できる点、建物の外観や印象も設計できるため地域住民から認知されやすい点などがメリットしてあげられます。

    また土地や建物を担保とすることで金融機関からの融資も受けやすいでしょう。

    テナント型開業と比べると、土地の取得費用が余計にかかるため事業コストが膨れ上がってしまいます。地価が高いエリアに行けば診療圏の人口は増える傾向にありますが土地の取得は困難。反面、地価が安いエリアは一般的にアクセスに難があり集患に苦労する可能性があります。

    一般内科を戸建てで開業する総事業費は2~2.5億円程度が採算分岐点になります。

    現地では数字でなく人の流れを見る

    現地で物件を見るときのポイントについて聞きました。

    事前に診療圏調査の結果を見れば、理論上の患者さんの見込み数、近隣の住民数、周辺のクリニック数などは把握できます。

    ただ最終的には、現地でドクターが肌で感じた情報、とくに「人の流れ」をもとに判断するのが重要だと関根氏は説明します。

    --テナント開業では、なかなかよい物件が見つからないという悩みも聞きます

    関根「一生に一度のこと、そんなに簡単に見つかりませんよね。不動産会社、コンサルティング会社も頼って物件を選ぶと思いますが、私のような設計士も物件探しを一緒に手伝うことがあります。診療圏調査で挙がってくる数字は参考程度にして、現地に足を運んだら周辺で流行っているクリニックも見てください。そこで「なぜ流行っているのか」を分析してみましょう。クリニックが新しくてキレイ、院長が名医だと評判、駅から離れているが近くに集合住宅が多くて人の往来が活発…など、数字では表れないいろんな事実が見えてきます。『住民の生活動線上にある場所が開業に適した場所』と言えるでしょう。事前に聞いていた数字と比べて、朝、夕方、平日、休日の活気を感じたらチャンスありかもしれません」

    周辺に多いのが高齢者ならば慢性疾患の多い一般内科、子どものいる家族連れが多ければ小児科など、開業した際のターゲットとなる方の行き来があるかを測るとよいでしょう。

    物件の契約と設計までの流れを確認する

    物件が気に入ったとしても、テナント開業の場合は「クリニック開業できる物件か」を建築設計会社に検証してもらう必要があります。

    OKであれば、同時に建築設計事務所から内装や設備工事の概略の見積もりをもらいます。

    物件の契約を済ませ、内装工事の準備スタートです。

    ただし開業時期をすぐに決定できない場合や、審査に時間がかかって融資がおりない場合は工事開始まで物件をおさえておく費用が余計にかかる懸念もあると知っておきましょう。

    設計会社と打ち合わせをする

    --ドクターは設計士さんとの打ち合わせにどう臨めばいいでしょうか。間取りや必要な医療機器の台数をイメージしておくべきですか

    関根「たまにいらっしゃいますが、そのようなご準備は不要です。むしろ任せていただいたほうがいいです。私が必ず大切にするのは、その先生が提供したい医療はどんなものか、どんなクリニックをつくりたいのか。この問いに対して答えていただけたらベストです。たとえば次のような質問もよくします。繁華街でそこそこ流行る手堅いクリニックを目指すのか、やや離れた場所で自身の医療を信じて孤高の存在を目指すか?幅広くいろんな科目の診療を行いたいのか、ある科目のエキスパートとしてブランディングするのか?など質問の答えで求められるクリニック設計はまったく変わります」

    まとめると、プライマリ・ケアに関する一般的な診療科は住宅地や商業地を第一に考える必要があります。また複数の診療科を標ぼうする場合も同様です。

    一方、専門性が高く疾病を特定したクリニック、予防医学に特化したケースや高度な医療機器を設置し専門的な検査や治療を行う場合などは家賃の安い中心地から離れた場所が適していると言えるでしょう。

    関根「またクリニックも『客商売』『サービス業』という教えが影響しているかもしれませんが、物販する小売店と同じような目線で開業されるのは私はおすすめしません。商売人気質があって、サービス精神旺盛なだけでも不十分だと考えています。

    開業することはその地域に新たなコミュニティを作ることです。新たに医院が加わるということは地域の医療環境はよくなりますよね。今や医療、介護はケアミックスの時代です。院長に『生活圏の中に溶け込み、人々の暮らしを支えていくんだ』いう気概があれば、不可欠な存在になれます。極端に言えば、この先生の言うことならなんでも聞くという患者さんたちで常ににぎわうクリニックに自然となっていきますよ」

    --だからこそ、先生がやりたい医療が大事なんですね

    関根「そうですね。優れた建築設計会社は、ドクターのやりたい医療をともに考えて具現化します。イメージはあるけれどはっきりと言語化できていない方は、想いを私たちにぶつけてくれれば大丈夫です。最初からはっきりとコンセプトができている先生には別の角度からいろいろ質問もさせていただきます。あえて反対意見を言わせていただくことで、先生に新たな気づきが生まれるケースもあります。一生に一度やるかどうかの開業だから、診療のコンセプトやメニューにはとことんこだわった方がよいと思います。ご自分だけでなく、私たちのようなプロとも議論を深めていくことをおすすめします」

    コミュニティを作れる医院になる

    コミュニティを作れる医院が求められているとの関根氏の指摘がありました。開業後にどのような心構えと行動が望まれるかを3ステップにまとめました。

    すでに開業後しているクリニックでも参考になるでしょう。

    ステップ1:普段の診療から積極的に聴く

    聞き上手を目指しましょう。

    患者さん自身の口で今後の治療に関する希望、現在の不安などを丁寧に聞くと、信頼獲得につながります。

    話しかけやすい雰囲気を作る、相手の目を見て話すなども忙しさに追われているとつい忘れがちです。また「そんなに時間をかけていたら外来患者を待たせてしまいクリニックの評判が下がる」など心配する声もあがりそうです。

    しかし診察時間が長い必要はありません。短時間でも傾聴する態度は患者さんにも「ちゃんと話を聴いてくれる先生だ」と伝わるはずだからです。

    また聴く役割は医師の診察だけでなく、看護師や受付スタッフにも担えます。診療の延長線上で、家族のこと、普段の生活で困っていることなどを相談してもらえるようになれば定期的に来院する確率は大きく高まるはずです。

    すると、他の住民やコミュニティに関する情報が自然に集まりやすくなります。

    ステップ2:院内の掲示物やWebで情報発信する

    院内の待合室やWebを使って、情報発信するのも親近感をもってもらう有効な方法です。

    腰痛を緩和する姿勢や体操、熱中症にならないための水分補給法など暮らしに役立つ方法を多くの患者さんは必要としています。

    また院長やスタッフと患者さんへのやり取りを見せるなども、コミュニケーション促進のきっかけになるでしょう。

    ステップ3:地域の開業医や商店街などとつながる

    地域の開業医やスタッフと関係構築勤務医の場合には、他科の医師とのコミュニケーションづくりは、自ら働きかけなくても院内での飲み会や親睦会が設けられたりしますが、開業医になるとそうした機会を誰かが作ってくれるわけではありません。

    他のクリニックとの連携、関係構築も大切です。とくに専門外の患者さんを紹介し合う関係を作っておけば、先方からの紹介を受けられる可能性もあるので互いのメリットは大きいはずです。

    商店街のような従来からある地域コミュニティとのつながりも作りましょう。親しい人が増えて、自然に患者さんが集まるようになります。

    そのためには地域のイベント、流行などの情報も集めておくのも重要です。

    まとめ:開業場所を選び際にイメージする

    今回は開業する場所選びのポイントと、設計準備に向けた必要事項について設計のプロに話を聞きました。

    関根氏はインタビュー中に何度も「院長がどんなクリニックにしたいのか」を研ぎ澄ませていく重要さを強調していました。

    何を成し遂げたいかを定めれば、どこで開業するかの考えも必然的に絞り込まれていくのではないでしょうか。

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