医療現場におけるデジタル化の事例紹介
医療現場のIT導入などデジタル化はここ数年で急速に進んでいます。しかし、実際に何を導入すればいいのか、どう活用すればいいのか分からないというクリニックもあるでしょう。今回は、クリニックのデジタル化の参考になるよう、デジタル化の事例をまとめてみました。
医療業界を大きく変えた電子カルテ
電子カルテ(EMR)の導入は医療業界を大きく変えました。従来のカルテは紙製のものが当たり前でしたが、保管スペースの問題や共有しにくいといった点がネックとなっていました。実際に長く運営しているクリニックでは、現在もこの問題を解決できずにいるというところもあります。
しかし、電子カルテは診察記録を電子データで保存できるため、保管スペースが必要ありません。カルテはデータベースに保存されるので、簡単に検索・閲覧でき、紙と違って保護しやすいのが特徴。書き出すこともできるので、医師の手間を減らします。
データなので共有や異なる場所での閲覧も可能。例えば患者が別の科に移る場合に、カルテの共有ミスが起こりにくくなります。特に大きな病院では連携が重要になるため、電子カルテの重要度は増します。
実際に導入した医師からは「データ管理が楽になった」「患者さんに説明がしやすい」といった声も挙がっており、電子カルテはもはや医療現場になくてはならないデジタルツールだといえます。
IoT機器の進化で離れていても診察が可能に
コロナ禍の今、「オンライン診療」が非常に注目されています。これもテクノロジーの進化によってインターネット環境が整い、手軽にオンライン通話が可能になったからこそ実現したものです。一昔前は「テレビ電話」は一般人が気軽に行えるものではありませんでしたが、今やボタン1つで可能です。新型コロナウイルスの影響で研修を受けずに導入可能となったため(収束後は受講する必要あり)、採用するクリニックも増えるでしょう。
ウェアラブル端末で患者の血圧や心拍数などを遠隔で常時モニタリングするといった試みも行われています。最近では、妊婦向けに自宅で胎児の健康状態や、子宮の収縮データをオンラインでモニタリングするサービスもあり、今後はさまざまな現場で遠隔診療が導入される可能性があります。コロナ患者のバイタルサインをウェアラブル端末で測定するという試みも行われるなど、今後いろいろな応用が期待されています。
低侵襲手術が行える有名な手術支援ロボットのダヴィンチは、術者が3Dモニターを見ながら操作を行うというもの。もともと遠隔地からの操作を目的に開発されたもので、2019年6月には厚生労働省が遠隔操作で手術を行うことを認めました。そのため、例えば東京にいる医師が、遠く北海道にあるダヴィンチを遠隔で操作して、手術を行うといったことが可能となります。この遠隔操作にもIoT機器の進化は必要不可欠。IoT機器の発展は「距離」という概念をなくすのです。
AIが医療スピードを加速させる
昨今、大きな注目を集めているのがAIの活用です。例えば、富士フイルムでは疾患別に診断支援AIを開発しており、がん病変の検出、脳卒中の検出のサポートとして、すでに医療機関で導入されています。レントゲン、CT、MRIの画像検査は、人が行うと相応の時間が必要です。また、熟練の医師の目をもってしても、わずかな病変を見落とす場合もあります。しかし、独自に学習が施されたAIを用いることで、検査の時間を短くし、病変を見落とす可能性を減らします。
AIによる事前問診も登場しています。患者さんの主訴からAIが最適な質問を自動生成するというシステムで、初診での問診時間を大幅に短縮することが可能。問診はクリニックを訪れる前にも利用(来院前問診)できるため、待ち時間の短縮にもつながります。導入しているクリニックでは、時間短縮だけでなく、電子カルテの記載内容を標準化できることもメリットだとしています。
医療現場におけるデジタル化の事例をご紹介しました。デジタル化による大きなメリットは、やはりマンパワーが減らせることです。カルテを電子化することで作業効率を高めたり、AI診断を導入することで診察にかかる人手を減らしたりできるので、特にスタッフを多く採用できない中小規模のクリニックにとっては重要です。導入コストとの兼ね合いもありますが、効率的、効果的な診察が可能になることは患者さんのためにもなります。開業の際には、最新のデジタルツールにも注目し、導入を検討してみてはいかがでしょうか?