クリニック内装の基本「デザインのポイント」と「法規制」
開業でのプロセスにおいて、物件を選定をしたのち、必ず検討しなければならないのが、「内装」についてです。今回は開業に伴った、物件の内装について、法規制やデザインの観点から解説いたします。
クリニック内装の基本「患者さんのための空間」
医院設計の基本は、「患者さんのための空間」であることをまず認識しましょう。また圧迫感のない空間作りが大切です。今の時代、超高齢社会が進行しており、「生活者に寄添うかかりつけ医師(クリニック)」の需要が高まっています。
政府は超高齢社会を迎え財政の逼迫が問題となり、「地域包括ケア体制」の確立を急速に進めています。この「地域包括ケア体制」の中核となるのが、「ホームドクター(かかりつけ医師)」であり、症状により薬局、専門医療機関・総合病院へと患者の情報を照会して適切な処置をすることが求められています。
また、在宅医療の需要も高まり、かかりつけ医を中心に日常生活圏内の看護師・薬剤師・管理栄養士などがチームを組み、医師の指導のもと役割を分担・協力して治療にあたることが求められています。そのためには、町の医院は地域生活者とコミュニケーションを取りやすい空間でなければならないのです。
クリニック内装のポイント「法規制」
診療所の開設にあたって「構造設備等の基準」をクリアしなければなりません。まずは平面プランができましたら、図面をもって必ず保健所の事前相談に行きます。そして図面上問題がないことを確認し、工事に着工する流れとなります。
注意点として、近隣に類似名称の医院が存在する場合、名称変更の指示がなされる場合もあります。そのため、ある程度提出書類が揃った早い段階で、保健所に足を運ぶ事をおすすめします。
詳しいことは、保健所などのホームページに詳細が掲載されていますので、ここでは重要なポイントのみを紹介したいと思います。
参照:東京都福祉保健局https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/tamafuchu/iryou/shinryojo_shika/shinryojo_kozokijun.files/kozosetubikijun.pdf
診療所の構造設備(規:医療法施行規則)
診療所は、他の施設と機能的かつ物理的に区画されていること。
例えば、戸建てなど診療所を居宅内に開設する場合、診療所と居宅の出入口が別にあり、廊下等を共有することなく明確に区画すること。
ビル等の専用階段、エレベータが存在する場所に開設される場合、医療施設の専用経路を確保すること。
原則として、各室が独立していること。また、各室の用途が明示されていること。
待合室
- 診察室と待合室の区画は、患者のプライバシー保護等に配慮し、扉が望ましい。
診察室
- 1室で多くの診療科を担当することは好ましくない。
- 小児科については、単独の診察室を設けることが望ましい。
- 他の室(診察室含む)と明確に区画されていること。
- 診察室が他の室への通路 となるような構造でないこと。
- 診察室は、医師1人につき一室が望ましい。
処置室
- 診察室と処置室を兼用する場合には、処置室として使用する部分をカーテン等 で区画することが望ましい。
- 給水設備があることが望ましい。
臨床検査室
- 他の室と明確に区画されていること。
- 血液、尿、喀疾、糞便等について、通常行われる臨床検査に必要な設備が設けられていること。
エックス線装置及び診療室
- エックス線診療室の室内には、エックス線装置を操作する場所を設けないこと。
- エックス線診療室である旨を示す標識を付すること。
- 管理区域である旨を示す標識を付け、管理区域内に人がみだりに立ち入らないような措置を講じること。
- エックス線装置を使用しているときは、エックス線診療室の出入口にその旨を表示すること。
- 移動式のポータブル装置であっても、診察室などで大半を使用する場合、エックス線診療室が必要である。
その他
- 廃棄物の処理にあたっては、廃棄物処理法の規定を遵守すること。
例)使用済の注射針については、金属缶等の堅牢な容器に密封処理するなど。 - 建築基準法、消防法等各法令に適合していること。
- 障害者差別解消法の規定に基づき、構造設備についての配慮や工夫をすること
※防火設備、空調設備については建築士が対応をすると思いますが、必ず所在地の消防署、保健所に確認をすると依頼しましょう。
面積の目安
保健所の指導基準としては最低の面積基準を設けておりますが、患者にとって圧迫感のないゆとりの有るスペースを提供するためには次の面積を目安とすればよいでしょう。
医療機関の必要施設
施設名・専科 | (診療所) 内科 | (中規模医療機関) 内科・胃腸・循環器
|
受付 | 6㎡ | 13㎡ |
待合室 | 10㎡ | 20㎡ |
中待合室 | - | 10㎡ |
診察室 | 10㎡ | 10㎡×3室 |
処置室 採血・採尿 | 10㎡ | 16㎡ |
ナースステーション | - | 13㎡ |
外来指導室 | - | 6㎡ |
簡易ベッド室 | 8㎡ | 16㎡ |
ミーティングルーム | 8㎡ | 13㎡ |
休憩室 | 8㎡ | 13㎡ |
※1 内科、耳鼻咽喉科・外科については全体の床面積は延床面積で105.6㎡(32坪)以上となっています。
※2 整形外科では45㎡以上のリハビリスペースが必要となりますが、地域によっては30㎡以上という地域もあります。
医院内装のポイント「患者さんの動線」
1階のエントランスホールには車椅子が入れるように十分な通路幅を確保します。そして一目で診察までの流れがわかるようなレイアウト(受付、診察、検査)が大切です。さらに、なるべく医院のスタッフが使う動線と患者さんが使う動線が同じにならないようにすることで、患者さんにとって、落ち着いた雰囲気で滞在いただけます。
また、検査や処置のための空間(検査・処置室・トイレ、待機場所)は、プライバシーを考慮し、メインの動線上には配置しないことが良いでしょう。
医院内装のポイント「また来たくなるデザイン・内装」
患者さんの目線から見たとき、よいイメージを与える医院に欠かせない条件は、なによりも「清潔であること」です。そして地域性に合わせた雰囲気や、緊張感のない診察室等のデザインで患者さんの心をより掴むことができます。
冒頭でも触れましたが、これからの医院はホームドクターの役割を果たさなければならないため、自宅や地域のコミュニティセンターのようなリラックスできる空間を演出することが大切です。
医院建築の基本は衛生、清潔、そして明るい空間です。その上で心が落ちつくような色使いや照明を使うことで、患者さんに少しでもくつろいで頂き、不安を和らげる雰囲気を創り上げることが重要です。
ユニバーサルデザインとは
年齢や障害の有無、体格、性別、国籍などにかかわらず、できるだけ多くの人にわかりやすく、最初からできるだけ多くの人が利用可能であるようにデザインすることをいいます。
医院内装の注意点
遮音について(患者のプライバシーを守る)
- 診察室は外部からの雑音が入らないように遮音に配慮する
- 天井高は2500~2700Hがおすすめ
- 間仕切は階上スラブまで立上げる
- PBとPBの間には遮音マットを入れる
- 吸音ボードを使用しクロス又はEP塗装がおすすめ
- ドアーの隙間から音が入ることもあるので建具には注意しましょう
色彩について(色彩による精神的な安心感を創出する)
- 単色で「オフホワイト」もしくは、「ライトグリーン」を基調
- クロスは汚れ防止仕様を使用
- 建具類は板目等がおすすめ
- 壁面は900Hまで板貼りでも良い
照明について(患者が眩しくない目にやさしい照明とする)
- 全体のルクスは800~1000ルクス
- 基本照明はLED Flood Light-ホワイトで全体の70%のルクスを確保
- 残り30%はDNライトで補成する
- Bedの上は直接顔に光が当たらないよう工夫する
- 診察室はライトコントロール付照明計画とする
診療科目別必要面積の目安
開業形態によっても変わりますが、一般的に言われている診療科目別面積の目安を整理してみます。整形外科は、リハビリテーションや検査機器を設置することが多いため、広い面積を必要とし、最低60坪~だと言われています。
また、眼科は、手術などを行うか否かによって面積が変わってきます。手術を行う場合は、最低50坪は必要です。手術がないレーザー治療程度の診療所ですと、30〜40坪前後で足ります。
科目 | 坪数 |
内科 | 35坪~50坪 |
小児科 | 30坪~40坪 |
整形外科 | 60坪~ |
耳鼻科 | 30坪~40坪 |
皮膚科 | 30坪~40坪 |
眼科 | 30坪~40坪、50坪以上(手術あり) |
医院内装工事費用の目安
医院の内装費用は約40万円~(坪単価)と言われています。そこにレントゲン室があれば約150万円~200万円の費用が上乗せされます。デザイン、材質、小部屋数によっても費用は変わってきます。
CTやMRIなどの大型機器を導入する場合は、床の耐荷重の対処のほか、通常の電気容量では足りないため、キュービクル式高圧受電設備の設置などでコストが大幅にアップします。したがって、工事発注は医院建築の実績がある事業所に相見積(最低3社)をとってから事業者を選定する事をおすすめします。
また、時間に余裕があれば設計と工事を分離し、設計事務所から内装工事事業者の見積と工事の監理をしてもらうことも検討しましょう。
内装費用の内訳
- 仮設工事
- 給排水衛生設備工事
- 電気工事
- 空調設備工事
- 塗装工事
- 内装仕上工事・建具工事
- 什器工事・換気設備工事
- サイン工事
- 防災設備工
上記が主な項目となっています。
これからの医院の役割、そして内装において基本となるレイアウト作成、それに伴った動線、デザイン上の留意点、そして内装単価などを概略してきました。重要なことは、医院のコンセプト(どのような医院)をしっかり描き、それに基づいて平面プラン、デザインプランを決めていくことです。
また、忙しくても面倒と思わず、重要なポイントはご自分でしっかり押さえながら理想とする診療所に近づけるように確認をとっていくことが大事です。