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全国に1店舗しかなかった“病院内店舗”を約15年で88店舗にまで増やしたタリーズの想いとは?

全国に1店舗しかなかった“病院内店舗”を約15年で88店舗にまで増やしたタリーズの想いとは?

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一日の大半を病院内で過ごす医療関係者、そして入院中の患者にとって、病院内のカフェは憩いの場。ここ数年は、院内に併設している病院を見かけることも多くなりましたが、ほんの十数年前までは、病院内カフェというものはほとんど存在しませんでした。そんななか、病院内への出店に意欲的だったのが、コーヒーチェーン「タリーズコーヒー」。2004年に、病院内店舗1号店目となる「好仁会 東大病院店」をオープンして以降、病院内店舗を増やし続け、現在では、全国に88店舗を展開しています。同社が病院内店舗の展開に力を注ぎ続ける理由とは? 同社広報の山口さほりさんにお伺いしました。

「職員向けの福利厚生」「地域住民にとって親しみやすい雰囲気作り」の2つを満たすカフェが求められていた

――まず、タリーズでは、病院・クリニック内のカフェのニーズについてどのようにお考えかを教えてください。

最初の出店は2004年の「好仁会 東大病院店」でした。病院様のほうで「職員向けの福利厚生」と「近隣にお住いの方が入ってきやすい雰囲気づくり」の2つを考えた結果、敷地内に出店するカフェを公募することとなり、タリーズも応募させていただいた次第です。

それまで、病院内に喫茶店はありましたが、明るく開放的な雰囲気ではなかったことが難点だったと伺いました。それもあって、病院内店舗のニーズとしては、「外に出なくても街中に出かけたときのような楽しい雰囲気を味わえる」ということが挙げられると思います。

また、「病院の外に出なくても、あたたかい飲み物、あたたかいフードを楽しめる」ことはもちろん重要ですし、入院中の患者様の中には、カフェスタッフとの会話を楽しみにしてくださっている方もいらっしゃいます。そういった意味でも、路面店や商業施設内店舗とは違った存在意義がありますし、出店させていただく側としても非常にやりがいを感じています。

「地域社会に根ざしたコミュニティーカフェとなる」の経営理念が、病院のニーズと見事に合致

――病院側も、病院内カフェのニーズを前々から考えていらしたのですね。

そうですね。最初にそれを形にしたのが「好仁会 東大病院」で、街中にあるようなカフェを設けることで、地元の人を呼び込みたいという狙いでした。その点において、弊社の経営理念のひとつである「地域社会に根ざしたコミュニティーカフェとなる」とも合致したことで、ぜひ公募に参加させていただきたいと考えました。同じ年、別の病院が同様の公募をおこなった際にはドトールコーヒーさんが選ばれましたが、そのころが病院内カフェの黎明期だったと言えると思います。コンビニの病院内店舗ができたのもそのころ。以降、特にナチュラルローソンさんの出店が増えています。

テーブルは角がないラウンド型を採用 バリスタカウンターは低めに設定 車椅子でも移動しやすい構造にも配慮

カウンターは低く作られていて手すりがあります。レジ前にくぼみも。

▲手すりつきカウンターは低めに設定。レジ前の通路は車椅子が通りやすいようくぼんだ設計

――病院内店舗とそうでない店舗の違いを教えてください。

ハード面においては、たとえばテーブルは角がないデザインのものにしたり、バリスタのカウンターを低くしたり、車椅子でもレジ周りを行き来しやすいよう、床にくぼみをつけたり手すりを施したりといったことが挙げられます。

どのような工夫を取り入れたらよいかについては、病院側からもアイディアをいただき、日々、勉強させてもらっています。同時に、病院内店舗同士で情報共有することも大切にしています。サービス面においては、病院内店舗以外においても言えることですが、基本的にはケースバイケースです。たとえば病院内店舗の場合、基本はセルフサービスであっても、お客さまのニーズを考えてお席までお持ちすることもありますが、それもやはり人によりけり。

一人ひとりのお客さまに居心地よく過ごしてもらうためにも、相手にとってのベストな加減を考えることが大切です。

インテリアのカラーに関しては病院ならではの配慮も必要だった

杖掛け付椅子

▲杖掛け付き椅子

――内装やインテリアに関して病院側から要望はありましたか?

病院内への出店をはじめた当時、病院側から、縁起がよくない赤と黒はデザインに取り入れないほうがいいと教えていただきました。

そこで、通常は黒いエプロンを使っていますが、病院内の店舗だけは茶色を採用することにして、インテリアからも赤と黒は外しました。他の店では、インテリアのベースは焦げ茶にしているのですが、病院内の店舗だけは薄めの茶色です。それから、杖を使われているお客さまがいらっしゃるから、椅子は杖をかけられる仕様にしたほうがいいということも教えていただきました。

入院中の患者から「お見舞いに来てくれた人とお茶できるのがうれしい」の感謝の声も

――病院内店舗ならではの反響はありますか?

病院の外に出なくてもあたたかいフードが買えることから、特に夕方以降は職員さんの利用が多く、たくさん用意してほしいとのお声をいただいたこともありました。タリーズは他のカフェチェーンに比べてフードのラインナップが豊富なので、その点も喜んでいただいています。

それから、レジ前のお菓子がよく売れるのも病院内店舗の特徴です。個包装のバームクーヘンなどを、入院患者へのお土産として利用される方がいらっしゃるためです。そのため、お土産として箱詰めできるよう箱も準備しています。入院中の患者さんからは、「タリーズがあるから、お見舞いに来てくれた人と一緒にお茶できてよかった」という声が寄せられることが多いです。「入院中いつも利用していたら、スタッフが顔を覚えてくれてうれしかった」と感謝のお手紙をいただいたこともありますよ。

妊婦さんのニーズがきっかけで、カフェインレスメニューがメニューに並ぶことに

――メニューに関しては、他の店舗との違いはありますか?

基本的には同じですが、カフェインレスのエスプレッソを使ったドリンクを豊富にそろえているのは病院店ならではです。

タリーズオリジナルの95%以上カフェインを取り除いた豆を使って作るエスプレッソドリンクで、プラス60円でオーダーできます。きっかけとなったのは、東京・広尾にある日本赤十字社医療センターです。

妊婦さんが多く利用されている医療センターのため、カフェインレスの飲み物の要望が挙がっていました。当時、店内でコーヒー豆の販売はしていたものの、その場でお出しするドリンクとしてはメニューにラインナップしていなかったのですが、注文があるたびにマネージャーがその豆を挽いてお出ししていたところ、コーヒー豆そのものを買っていかれるお客さまも増えたんです。

この経験をもとに、病院内に新店を出店際は、必ずカフェインレスメニューを用意するようになりました。その結果、「OL時代に飲んでいたハニーミルクラテがデカフェで楽しめる」など、いろんなメニューを試せることでお客さまに喜んでいただけています。広尾での出来事があったときには、妊婦さんが対象のイメージでしたが、導入したところ、遅い時間にはカフェインを控えたいと考えている人も多いなど、幅広い年齢層にニーズがあることがわかりました。

入院中の患者さんに楽しんでもらえるイベントも企画

――店舗内でのイベントにも工夫を凝らしているそうですね。

もともと全国的にいろんな店舗でイベントを開催しているのですが、病院内で開催するにあたって新しいアレンジも加えています。たとえば、小児病棟でのイベントでは、親子でお絵かきタンブラーを作るイベントを開催したことがあります。

タリーズのドリンクを飲みながら「マイタンブラー」を作ってもらったのですが、参加者にもとても好評でした。病院内のイベントは、患者様やお子様を意識したものが多いのですが、どんなイベントがいいかのアイディアは、職員様からいただくこともあります。淹れたてのコーヒーや紅茶をポットに入れてお届けする「ポットサービス」をご利用いただいた際の立ち話からイベントに発展することもありますし、日々のコミュニケーションの中で生まれてくるアイディアはお互い大切にしています。

コロナ禍などの大変な時期こそ、ほっとできる時間を提供したい

――コロナ禍において、病院内カフェとして注力してきたことがあれば教えてください。

昨年の非常事態宣言明け以降、医療従事者へのコーヒーやフードのサービスを実施してきました。具体的には、ポットサービスのほか、バウムクーヘンやフィナンシェ アーモンドダイスなどのお菓子のサービスです。病院によってはサービスを受けない判断をされたところもありましたが、敏感にならざるを得ない事態ですし、こちらも十分な感染症対策を取ることは心がけました。大変な状況の中、わたしたちにできることは何だろうか?と考えた結果、一瞬でも寛いでもらえる時間を提供することこそ、病院内カフェが果たすべき役割だと思ったんです。実際、コーヒーの香りには、脳内α波を促す力もあるといいますし、ひとりでも多くの方に、リラックスできる時間を持ってもらえたらうれしいです。

個々の病院や地域のニーズを組みながら、みんなに喜んでもらえるカフェを運営していきたい

お待ちの間にかけていただく椅子

▲コーヒーの出来上がりを待つ時間に腰かけられる椅子も設置

――これまでは総合病院様への出店がほとんどですが、個人病院やクリニック様でも、カフェがあるところが増えるといいですよね。

個人病院さんは、「ブック&カフェ」などがあってもすごくいいと思います。タリーズでは、本屋併設の「ブック&カフェ」も展開しているのですが、コーヒーと読書ってすごく親和性があるんです。病院が、「地域に根差した医療」を目指していることを考えると、「ブック&カフェ」のような、地域のみなさんがくつろげる場所であることはすごく魅力的。もちろん、地域によっては本屋以外のものを必要としているところもあると思うし、その土地ごとのニーズは、逆にこちら側が教えていただきながら、その場所に合ったカフェを一緒に創っていきたいなと思っています。タリーズとしては、病院内への出店には大きなやりがいを感じているので、規模の大小問わず、これからもいろんな病院様とご一緒させていただけたらうれしく思います。