クリニック開業前に知っておきたい損益分岐点とは?
「損益分岐点」という言葉を聞いたことはあっても、正しく意味を説明することは難しいと感じる人は多いかもしれません。しかし、開業医としてクリニックを経営する立場になるからには、損益分岐点についてきちんと知っておくことが大切です。そこで今回は、損益分岐点および併せて身に着けておくべき知識を説明します。
損益分岐点とは?
損益分岐点とは、売上高と費用が等しくなるポイント、つまり、損益がゼロとなる売上高のことです。売り上げが損益分岐点を超えれば「黒字」となりますが、損益分岐点未満であれば「赤字」です。
「固定費」「変動費」とは?
損益分岐点と併せて知っておきたいのが、「固定費」と「変動費」です。
「固定費」とは、家賃や人件費、減価償却費のように、売上高に関わらず毎月同額で発生する費用です。
「変動費」とは、医薬品費や診療材料費、検査委託費用、残業手当などのように、医業収益の変化に伴って発生する費用です。ちなみに歩合給のスタッフの人件費は、「変動費」に入ることになります。「変動費」は、売上高が上がるほど高くなることになります。
クリニックの毎月の支出には、「固定費」も「変動費」も存在するため、「固定費+変動費=総費用」ということになります。そして、「売上高」と「総費用」が交わる時点が、「損益分岐点」となります。また、損益分岐点より売上高が高いと黒字、低いと赤字ということになります。
損益分岐点を下げるにはどうすればいい?
次に、クリニックの経営において損益分岐点を下げるためにはどうすればいいか考えます。
前述した通り、損益分岐点とは売上高と総費用が交わる点です。つまり、損益分岐点の位置を下げるためには、まず、総費用を抑えることが必要だということです。しかし、変動費は売上に比例して変わっていくもの。つまり、クリニックの総費用を抑えるためにまずやるべきは何かというと、固定費を抑えることが必要なのです。
「固定費型」「変動費型」とは?
このように、固定費の〆る割合が高い事業の業界を「固定費型」といい、病院・クリニックのほかには運輸業やホテル・旅館業などが代表的存在として挙げられます。固定費型の事業は、利益を出すまでは大変ですが、1単位あたりの利益(=限界利益)が高いため、損益分岐点を超えて売り上げられるようになると、コストである変動費の伸びは緩やかであるため、儲けが大きくなる傾向にあります。クリニックの場合でいうと、地域での認知度が上がり、固定の患者がつくようになると、利益率が高くなっているということです。
一方、卸売や小売業のように、商品を仕入れて販売する事業などは「変動費型」となります。変動費型の事業は利益を出すこと自体はさほど難しくはありませんが、限界利益が低く、規模が拡大しても変動費率が高いままのため、「薄利多売」に陥りがちです。
参考までに、業種ごとの固定比率の平均値は以下の通りです。医療福祉業界の固定比率がいかに高いかがよくわかる結果です。
業種 | 固定比率(%) |
建設業 | 79.8 |
製造業 | 99.1 |
情報通信業 | 65.9 |
運輸業・郵便業 | 158.2 |
卸売業 | 79.3 |
小売業 | 150.4 |
不動産業・物品賃貸業 | 162.1 |
学術研究・専門・技術サービス業 | 114.9 |
宿泊業・飲食サービス業 | 486.5 |
生活関連サービス業・娯楽業 | 204.3 |
その他のサービス業 | 85 |
医療福祉業 | 215 |
参照:中小企業庁「中小企業実態基本調査報告書」をもとに加工して作成
固定費を抑えるためにはどうすればいい?
続いては、固定費を抑えるためにできることについて考えてみましょう。
固定費を削減することは一見難しく思われるかもしれませんが、家庭の節約と同じで、探してみればできることがたくさんあります。まず、賃貸料に関して交渉の余地があるなら、ダメもとで交渉してみるといいでしょう。水道光熱費は、節電・節水モードがある設備に切り替えるだけでも安くなることがあります。または電力会社のプラン変更を視野に入れるのもいいでしょう。人件費は、一度契約した内容から変更することは簡単ではありませんが、たとえば時給換算で支払っているスタッフに関しては拘束時間を見直すことはできるでしょう。また、効果がほとんど出ていない広告は契約を解除したり、ホームページの運営に関してはよりよい代理店を探したりすることも有効です。
レセコンや電子カルテの経営分析ツールも存分に活用しよう
レセコンまたはレセコン一体型の電子カルテを使っているなら、経営分析ツールを活用すれば、損益分岐点についての理解がさらに深まります。損益分岐点の計算に必要な平均患者単価はワンクリックで出すことができますし、経営の黒字化に必要なことも具体的にみえてきますよ。