クリニックが建てられない土地とは?
戸建てでのクリニック開業を考えている場合、早い段階から理想の土地を探し始めている人も多いでしょう。あるいは、実家の敷地内などに建設を考えている人もいるかもしれません。しかし、理想の土地が見つかったまたは所有していたとしても、必ずしもそこにクリニックを建てられるとは限りません。なぜなら、"クリニックが建てられない土地"も存在するからです。どういうことか、さっそく解説していきます。
「市街化地区」には建てられる場合が多いが、「市街化調整地区」にはほぼ建てられない
まず、大きく関係しているのが法規制です。日本国内の土地は、都市計画法によって「市街化地区」と「市街化調整地区」の大きく2つに分けられます。このうち前者は、「第一種低層住居専用地域」「第一種中高層住宅専用地域」「商業地域」など用途によって13種類に分けられますが、クリニックは基本的にどの地域でも建築可能です。ただし、住居兼用の場合、「工業専用地域」には建てることができません。
一方、後者の「市街化調整地区」には、基本的に建物を建てることができません。ただし、この区域の周辺地域にすでにある程度の住民が暮らす集落が存在しており、住民たちにとって公益上必要な建築物であることが認められた場合は、建設することが可能です。とはいえ、これは「例外中の例外」だと思っておいたほうがいいでしょう。
市街化地区での建築にも条件がある
市街化地区であっても、理想通りの建物を建築できるとは限りません。なぜなら、次に挙げる項目に関しては制限が設けられているからです。
建ぺい率・容積率
敷地面積に対する建物の建築面積の割合「建ぺい率」、敷地面積に対する建物の延べ床面積「容積率」は、ともに法律で定められた値を守る必要があります。
高さ
建物の高さは、斜線制限などの影響を受けます。加えて、地域によって建物の最高の高さが定められている場合があります。
高さが10mを超える場合などの日影
建物の高さが10mを超える場合などは、周囲に日影ができるという観点から、建物の高さや形状に制限が適用されます。日影制限は場所によって異なります。平均的な2階建て家屋が8~9mであることを考えると、天井を高めに設計した2階建てのクリニックを建てたい場合などには注意が必要でしょう。
防火地域・準防火地域・法22条区域
都市計画法によって「市街地における火災の危険を防除するため定める地域」と指定されている「防火地域・準防火地域」での建築なら、燃えにくい仕上げ材、燃えにくい構造にしなければならないなどと決められています。さらに、建築基準法で規定された「法22条区域」や、東京都なら「新たな防火規制区域」においての建築にも、燃えにくい屋根や外壁を使うことが定められています。
地区計画
道路から建物までの距離や、外壁および屋根の形状、色彩などが定められている地区も存在します。
接道義務
建物の敷地は、基本的に道路に2m以上接している必要があります。購入予定の土地を下見した際、この条件をクリアできそうだと思っても、道路と土地の間に他人の土地が挟まっているケースがあるので注意が必要です。
有床クリニックの場合はこのほかにも建てられない土地がある!
クリニックが有床の場合、建築基準法第2条2項によって「特殊建築物」として扱われることになります。
特殊建築物とは、読んで字のごとく特殊な設備や構造を持った建物のこと。有床クリニックを含む医療機関以外には、学校や体育館、劇場、集会場、展示場、百貨店、市場、ダンスホール、遊技場、観覧場、旅館、工場、倉庫、自動車車庫、公衆浴場、共同住宅、寄宿舎、下宿、危険物の貯蔵場、屠畜場、火葬場、汚物処理場、その他これらに類する用途に供する建築物を指します。
なんのために「特殊建築物」という区分が存在するかというと、不特定多数の人が利用するため、通常の建物より火災発生の可能性、人命にかかわる大きな事故につながる可能性、建物を含めて周囲にも影響が及び可能性などが高いため、それらを可能な限り防ぐべく、立地条件や防火設備、構造、工事中の取り扱いにおよびまでさまざまな義務を定めるためです。
また、特殊建築物は専門の調査者や検査者が定期的に調査および検査をおこない、視野都道府県の特定行政庁に報告することが義務付けられていますし、特殊建築物の所有者は、この調査結果をもとに建物のメンテナンスや維持管理をおこなわなければなりません。
そのため、有床クリニックとして開業予定なら、理想の土地探しには時間がかかると思って早めに動いたほうがいいでしょう。
法的条件以外に確認すべき点は?
クリニックを建築する前には、法的条件以外にも確認しておきたいことがあります。代表的なものを以下に紹介します。
敷地境界
敷地の境界線については購入前にしっかり確認することが大事です。「境界画定測量図」が存在する場合は安心ですが、その図面のとおりに境界杭があるかどうかは確認しておくに越したことはありません。「境界画定測量図」が存在しない場合は、売買契約時までに境界確定測量をおこなうことが望ましいです。
敷地に接道する道路の所有者
敷地に接道する道路が私道である場合、その道路を患者が使用することからトラブルに発展しかねません。そうならないよう、事前に所有者に承諾を得ておくことが非常に大切です。また、クリニックの敷地に接道する道路であれば、クリニックも共有所有者となることがほとんどですが、私道のアスファルトの剥がれや側溝の詰まりといったことに関するメンテナンスは原則自己負担なので、補修にかかる費用の分担についても事前に確認を取っておくことをおすすめします。
土地の高低差
道路から玄関までのアプローチに多少なりとも高低差がある場合、スロープを設置する必要性が高まります。高齢患者が多いことが予想される場合は特にマストとなるので、事前に不動産屋に確認しましょう。
水道管、下水管、ガス管
診療科によっては水道周りが要である場合があります。細い水道管しか引き込まれていない場合、入れ替えの費用が発生するので注意が必要です。下水管が通ってない場合は、浄化槽が必要になるためそのぶんの初期費用が発生します。ガス管がなければプロパンガスで代用可能ですが、ランニングコストが高くなります。
地盤の状態
地盤調査の結果データは、役所などで確認可能です。調査データがない場合、周辺の土地の調査データを参考にするといいでしょう。
土壌汚染
購入した土地に土壌汚染があった場合、「瑕疵(かし)担保責任」の対象となるため、汚染除去工事は売主側の負担となるので費用的には心配はいりません。ただし、汚染除去工事が必要となったぶん、建物の完成予定が先になる可能性があります。
医療施設経営に「向いているかどうか」も考慮するとなおよし!
法的な条件や、金銭面などでリスクが大きくなる要素に加え、「クリニックを開くのに向いている土地であるかどうか」まで考えることができたらさらに理想的です。「視認性が高いかどうか」「住宅が多く人通りが多いエリアであるか」などまでチェックするかどうかで、集患率は大きく変わってきます。気になる土地があるときは、実際に現地に足を運んでチェックすることで、後悔のない開業を実現してくださいね。