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クリニック経営を成功させる働き方改革とは?

クリニック経営を成功させる働き方改革とは?

クリニック経営を成功させる働き方改革とは?

開業医は診察以外にもすることが多く、忙殺される日々を送ることになります。しかし、これでは患者さんに集中することができませんよね。より良い医療を提供するためにも、働き方を変える必要があります。今回は、開業医の「働き方改革」の参考になるよう、『ドクターの“働き方改革”28メソッド: 開業医のための最強のタイムマネジメント』の著者である、医療法人梅華会の梅岡比俊理事長にお話を伺いました。

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患者のための時間を作るための改革

――そもそも先生が働き方改革に注目したきっかけはなんでしょうか?

大学病院の研修医1年目に、大名行列といわれる、医師や看護師が総出で回診することを経験しました。全員でぞろぞろと院内を診察して回りますが、われわれはただ後ろをついて歩くだけで何もしません。そこで「時間がもったいない」と思ったのがきっかけです。

当時はマニュアルが組まれておらず、その都度オーダーを組んでいたため、例えばガーゼの交換だけなのに3人もその場にいるなど、「もっと効率的にできるはずなのになぁ」と思いました。加えて、自分自身がもともと「ずぼら」なので、楽できるところは楽がしたいと考えていたのも、働き方を変えようと思った理由ですね。

時間や人の手は限られていますから、使うのならば価値の高いところに使いたい、そう考えました。それで、自分自身が統括する立場になった際に、効率的に診療ができるように取り組んだのです。

――働き方改革に取り組まれた際、特に注力されたことを教えてください。

「これは医師がすべきことなのかどうか」を明確にしたことです。ただでさえ医者はすべきことが多く忙しいのに、あれもこれもと全部しようとすると、とてもではないですが手が回りません。そのため、医師は自分の仕事に集中できるよう、作業内容を整理しました。

極端な例ですが、電球や電池の交換、事務用品の発注などは医師の仕事ではありませんよね。医師は患者を診ることが仕事ですから、ほかのことに時間を取られて、診察できる人数が減っては本末転倒です。カルテの記入も医師でなくてもできるわけですから、例えば隣にカルテの代行記入できるスペースを作り、医師は患者だけを診ればいいようにするなど、医師が患者に向き合える環境を作ることを意識しました。

――先生の考える働き方改革は、医師やスタッフのためだけでなく、患者さんのためでもあるのですね。

結局われわれの手間が増えると、その分患者さんを待たせることになります。「病院は待って当たり前」と考えている人もいるかもしれませんが、結局患者さんの時間を無駄にしているわけです。それでは「イケてない」ですよね。

――「働きやすい環境」を作れば、提供する医療の質も向上するかもしれませんね。

そのとおりです。医師もスタッフも患者さんもみんなハッピーになればうれしいですから、そのためにも働き方を考え直すことが重要なのです。

医師の時間を増やす工夫がポイントとなる

――先生が実際に取り組まれた改革例を教えてください。

たくさんあり過ぎて何を話せばいいか悩みますが、先ほども少しお話ししたように、やはり医師の仕事の見直しが大きかったです。医師がする必要がないこと、自分じゃなくてもできることはとにかくスタッフに任せるようにして、「医師の時間」を増やすようにしました。

――医師の時間を増やすべく何に取り組まれましたか?

病気に関する注意点は、基本的なことは私が説明しますが、それ以外の注意点に関してはパワーポイントでまとめたものを渡すようにしました。例えば、中耳炎の場合はお風呂に入っていいのか、どんなときに痛み止めを飲むといいのかといったQ&A集を渡し、これを見て分からない点があれば看護師に聞く、という仕組みを作りました。

また、マニュアルや説明事項などを全てまとめたスプレッドシートを医師やスタッフで共有するようにしました。開院した当初はとにかくスタッフからの質問が多く、同じことを繰り返し説明していて「これは面倒だな……」と思いました。そこで、「じゃあもう質問と回答をまとめよう!」ということになったのです。

いわゆる院内イントラネットのようなものですから、検索すれば必要な情報が得られるようになっています。こうすることでスタッフはいちいち医師に聞きに来る必要がなく、医師も説明する手間が取られません。これは時間の節約につながりました。

ネックとなったのは「人」

――働き方改革を実施する上で、特に難しかった点は何でしょうか?

開業医は医師でもあり経営者でもあるので、そこも両立させないといけないのが難しいところです。そのためには、医師の仕事をどれだけ手放すかが大事になります。ただ、「これは自分がしないと」「これはほかの人に任せられない」と仕事を手放せない医師も多くいます。実際、この「委任する」という点は非常に苦労しました。任せていいのかという恐れがあったり、相手の能力を低く見積もってしまったりなど、思い切って仕事を渡せませんでした。

――やはり難しいのは「人」なのですね。

システムの前に「人」です。どんなにうまく仕事が回るシステムがあっても、信頼や信用を抜きにしてはスムーズに事は運びません。私もなかなか任せることができませんでしたが、「もしかしたら自分以上にうまくできるかもしれない」と思い、信じて任せることにしました。結果的にその信頼が人を育て、働き方を変えることにもつながったと思います。

経営コンサルタントのスティーブン・R・コヴィー氏の著書『7つの習慣』に「物を使うときは効率的に、人を使うときは効果的に」とあります。働き方改革では「効率化」という言葉が使われますが、効率的に動かそうとすることに対して人はネガティブな感情を持ちます。一方、「効果的」であれば、好意的に捉えるといいます。これを読んだとき、私は「なるほど」と思いました。

この考えは非常に参考になりました。一方的にこうしなさい、ああしなさいと効率を考えて指示するより、積極的にコミュニケーションを図って効果的な働き方を探るほうがいいですからね。非効率的かもしれませんが、信頼関係を築くことは、効果的な働き方を実現するために最も重要なことです。

――スタッフもいい信頼関係ができれば働きやすくなるでしょう。

そうですね。働きにくい環境ではいい医療も提供できません。それでは意味がありません。「誰のためなのか」という考え、視点を常に持ち続けることが大事です。

――医師やスタッフとの信頼関係をうまく築くこつはありますか?

男性と女性の「性差」を理解することがポイントだと思います。例えば、男性の場合は「成果」を重視し、女性の場合は成果だけでなく「プロセス」も踏まえて考えてほしいという傾向にあると思います。こうした性差を意識することは、より良い関係性の構築に役立ちます。良い関係性が構築されていないと、仕事を任すこともできませんし、働き方を変えようとしても難しいですからね。

ただ、性差を考えてコミュニケーションを図り、関係性を構築するには、相応の興味・関心がないとできません。残念ながら医師の中にはスタッフのことまで頭が回らず、放置してしまっている人もいます。いい関係を築けば働き方も変えていけるはずですが、そこまで考えていないケースも少なくないのです。

仕事以外の時間を大切にすることで人としての器を広げる

――働き方改革に成功した後は、どのようなことを意識してクリニックを運営されているのでしょうか?

まずは「仕事以外の時間を大切にすること」を意識するようにしました。家族との時間であるとか、趣味を楽しむ時間であるとかです。医師は人と触れ合う仕事ですから、医師自身もいろんな経験、体験を通して、人としての器を広げておく必要があると思います。それが患者さんに共感し、親身になって寄り添うことにもつながっていくのではないでしょうか。

また、これまでの成果で満足せず、さらに仕事の内容や働き方を整理することも重要です。日本はハードワークが尊ばれる、美徳であるという風潮があります。しかし、労働生産性は実は非常に低いのです。結局、長く働いたところで結果は出ていないのですから、短い時間で効果を得る、つまりいかに労働生産性を高めるかが重要になります。これも私は大切に考えていることです。

――IT機器やデジタルツールも次々に新しいものが登場していますし、今後新しい働き方を変える手段ができるかもしれませんね。

それはあると思います。私も「これを取り入れたら効果的に働けそうだ」という視点を常に持つようにしていますし、まだまだ医療にはITが活用できることが多いと思っています。もちろん、人間にしかできないことはありますが、ITが得意とすることはITに任せていけば、効果的に働けるようになるのではないでしょうか。

――最後に、これから開業する医師に向けてメッセージをお願いします。

人の意見に耳を傾けないドクターが多くいます。松下幸之助さんが「素直な心を持つことが大事」という言葉を残していますが、自分が一番だからと他者の意見を拒絶してしまうことは成長を阻みますし、そもそも経営において人の意見を聞かないことは致命的です。今後開業するドクターは、人に関心を持ち、謙虚さ、素直さを持ってもらいたいと思います。

また、同業種の活動を参考に働き方改革をしようとしている人もいますが、医療業界はどうしてもガラパゴス的な部分があるので、参考にするなら同業種よりも他業種に目を向けるといいと思います。そのほうがドラスティックな方法に出会える可能性があります。

――ありがとうございました。

梅岡比俊理事長に働き方改革をしようと思ったきっかけや実際の改革例などを伺いました。スタッフとの信頼関係が重要だとは思いつつも、関心が持てなかったり、忙しさのあまりに放置してしまったりと、良い関係性が築けていないケースも多くあります。それでは患者さんのためにはなりません。まずはスタッフとしっかりコミュニケーションを図るなど、できるところから一歩ずつ変えていくといいかもしれません。

梅岡比俊先生 profile

umeoka ent clinic

医療法人梅華会グループ理事長

1973年兵庫県芦屋市生まれ。奈良県立医科大学卒業後、野口病院、星ヶ丘厚生年金病院、麻生病院、市立奈良病院に勤務。2008年、兵庫県西宮市に梅岡耳鼻咽喉科クリニックを開業。中小企業家同友会に参加し他業種の経営者のあり方に衝撃を受けたことをきっかけに、その考え方やノウハウをクリニック運営に取り入れるべく、医療業界以外のセミナーに多数参加し取り組みを実践することで、経営者としても研鑽を積む。2011年より分院展開を進め、2018年には耳鼻咽喉科・小児科・消化器内科合わせて7院を運営するまでとなる。

取材協力:医療法人梅華会

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