年収から考える法人化する目安とは?
個人開業医の経営が軌道に乗ると、医療法人化を検討するべきタイミングが訪れます。主な要因は「節税」です。個人の所得に対する所得税率は最大45%であるのに対し、法人税率は上限が23.2%と大きな差があります。個人開業医の課税対象売上が一定額を超えた場合、住民税と所得税の合計で課税率が50%を超える計算になります。今回は、個人開業医にかかる税金の種類と、医療法人に切り替えるべきタイミング、医療法人化のメリットとデメリットについてご紹介します。
個人開業医にかかる税金の種類とは
個人開業医にかかる税金は主に、消費税、所得税、住民税の3種類です。医業収入は事業所得に該当します。その収入から必要経費を控除した残額について、所得税の累進課税と住民税が課せられる仕組みとなっています。
消費税
個人・法人にかかわらず、課税対象となる売上が1,000万円を超えた場合には、その年の翌々年(法人の場合は翌々年度)から、消費税が発生します。クリニックの医療収入は、一般の商品販売やサービス提供とは異なり、非課税対象となるものと課税対象となるものが細かく分類されています。そのため個人開業医には、消費税に対する正しい理解が必要となります。
クリニックの課税対象売上とは
消費税法では、医療機関が行う診療行為は「健康保険法に基づく療養、医療等としての遺産の譲渡」に当たる非課税取引としています。ただし非課税取引に該当するのは、社会保険や国民健康保険を利用した診療の場合であり、自費診療には消費税がかかります。クリニックにおいての課税対象、非課税対象となるものは以下のように分類されます。
非課税対象
- 社会保険医療
- 労災医療、自賠責
- 正常妊娠、出産にかかる医療
など
課税対象
- 初診に関わる特別な料金
- 予約または時間外診察料
- 予防接種
- 健康診断
- 人工妊娠中絶
など
所得税
所得税法では、課税所得金額が900万円超から1,800万円未満の場合は所得税率33%、1,800万円超から4千万円未満の場合は所得税率40%、4千万円超の場合には所得税率45%と規定されています。
課税所得金額 | 所得税率 |
---|---|
900万円超~1,800万円未満 | 33% |
1,800万円超~4,000万円未満 | 40% |
4,000万円超~ | 45% |
住民税
住民税はほぼ一律で所得の10%となります。
前述のとおり、法人税率の上限は23.2%であることを踏まえると、個人開業医と医療法人における税は最低でも10%の差があります。年収から考えた場合、クリニックの法人化を検討する目安は所得が1,800万円を超えるタイミングといえます。所得が1,800万円超の場合は所得税率が40%を超えるため、法人化することで単純計算で約17%の節税効果が期待できるからです。
法人化による最大のメリットは節税ではありますが、それ以外にもさまざまなメリットが存在します。例えば、社会診療報酬分については事業税が非課税になるなどの特例、理事長に対する給与所得控除、生命保険を活用した節税等が挙げられます。当然、医療法人ならではのデメリットも存在します。医療法人化をするためには、慎重に検討を積み重ねる必要があります。
法人化のメリット
給与所得控除による節税
医療法人の場合は、役員報酬として支払われるため、給与所得控除を受けられます。個人事業と比較して、節税効果があります。
生命保険料の活用、経費計上と退職金の準備
個人事業の場合は年間12万円までが所得控除の対象となりますが、医療法人の場合は金額の制限がありません。保険料を経費にしながら退職金を積み立てることも可能です。
所得分散による節税
家族を理事長や理事に就任させ報酬を支給することで、所得の分散と節税効果が期待できます。
分院の設立などの事業展開が可能
個人では認められない分院の設立や介護事業などへの事業展開が可能です。
自動車などの法人名義化による経費計上が可能
自己で所有する自動車などを法人名義とすることで経費計上が可能となります。
など
法人化のデメリット
社会保険と厚生年金への加入義務
医療法人は従業員の人数にかかわらず、社会保険と厚生年金への加入が義務化されています。
事務手続きの増加
医療法人は、毎年事業報告書や資産登記、理事会の議事録などを作成する必要や、決済終了後三カ月以内に都道府県知事に事業報告書を提出する必要などがあります。
医療法人に蓄積された財産は返ってこない
医療法人を解散した場合、残った財産は国等に帰属します。退職金を理事などに支給することで財産が残らぬよう計画的に解散するなどの手段はあります。
剰余金配当の禁止
医療法人は、剰余金の配当が禁止されています。「剰余金の配当」とは、損益計算上の利益金を社員に対して分配することです。他の法人への融資・貸付も禁止されています。
医療法人は簡単に解散できない
医療法人は事業の永続性を求められているため、解散時は都道府県の認可が必要です。個人的な理由による解散は認められません。
など
まとめ
医療法人は、その性質から一般の法人よりも厳しい制限やルールが存在します。しかし、医療法人化における節税効果や事業展開への展望は無視できないものです。個人開業医が医療法人化を考える場合は、タイミングを見極め、メリットとデメリットを踏まえた上で慎重に検討しましょう。