レセプト業務の外部委託はできるのか
クリニックにとってレセプト(診療報酬明細書)請求とは、医療行為を「お金」に換える重要な業務です。しかし、請求にかかる作業時間は膨大で、医師・クリニック院長やスタッフの負担になっていることも確かです。スタッフの残業時間の軽減、あるいは院長がレセプトに関わる時間を削減するために、レセプト業務を外注したいと考えるクリニックは少なくないでしょう。
レセプト業務の外部委託についてはどのように考えるべきなのでしょうか。
医療専門のコンサルタントサービス「メディカルタクト」を運営する「株式会社レゾリューション」の柳 尚信代表にお話を伺いました。「メディカルタクト」ではレセプト業務の外部委託サービスを行っており、また柳代表は、医療関係のコンサルタント業務で長い経験をお持ちです。
レセプト業務のブラックボックス化は避けるべき
――「レセプト業務を外部委託できないか」と考えるクリニックは少なくないと思われますが、「メディカルタクト」で提供しているサービスについて教えてください。
柳代表 レセプトの提出が毎月1日から10日までと決まっていますので、その期間に医療機関を訪問し、「レセプトが提出できる内容になっているかのチェック」を行います。不備があれば補って提出できるレベルにまで仕上げるというのが、私たちの業務の骨子になります。業務を進める上で注意していることは、「判断は院長性に委ねる」という点です。
不備があった場合、修正すべき内容は経験的に判断できますが、私たちで判断し修正するようなことはしません。判断は医療機関が行ことだと考えています。事務レベルで対応できる内容であれば、積極的に修正していきますが、医療内容について修正が必要となる場合は、院長先生にお聞きした上で進めるようにしています。
――日々の患者さんごとの対応や、レセプトを作る業務はクリニック側で行うのが前提なのですね。
柳代表 レセプト業務については、
- レセプトを作る
- レセプトをチェックする
という2つの作業があります。私どもでは②を担当して、①の会計業務・レセプト作成はクリニックでしっかり行っていただくのが基本と考えています。
――それはなぜでしょうか?
柳代表 私たちが①②の両方を行うと、クリニック側のチェック機能が働きません。クリニックにとって最も大事な診療報酬請求がすっかりブラックボックス化し、院長先生も中身がよく分からないということになってしまいます。これはクリニックにとって良いことではありませんし、また、私たちの業務品質を判断いただけないことにもなります。
――それはまずいですね。
柳代表 「院長先生が行う業務」「スタッフが行う業務」を明確にすることで、各人が責任を持って業務を進めることができるようになり、私たちが確認をしなければならいことが少なくなっていきます。そうすることでレセプトの精度も上がっていきます。一見すると、クリニックの仕事が増えるように思われるかもしれませんが、「役割分担」であると考えています。
先ほど、レセプトで医療内容について不明な点があったら必ず先生に聞き、絶対に私たちでは「判断しない」ようにしていると申しましたが、これは私たちがブラックボックス化しないためでもあります。
先生にとって最初は煩わしいかもしれませんが、続けるうちに不明な点がどんどん減って、非常に明瞭にレセプト業務が進められるようになっていきます。クリニックのレセプトに関わるスタッフの皆さんも仕事のスキルが上がっていきます。
――レセプトに関わる部分を丸ごと全部お願いしますという依頼はありませんか?
柳代表 それは確かにあります。しかし、先にお話ししたとおり、それではクリニック側がレセプトについてよく分からないということにつながりかねません。私たちはクリニックの経営コンサルタントも行っていますが、収入に関する大事な部分をすっかり外部に任せてしまうのは良くないと考えています。
レセプト業務の中で見えてくる「業務改善」があって、実はこれが経営の改善につながるのです。クリニックの院長先生にはぜひそれを考えていただきたいと思っています。
かかる費用は?
――ホームページによると、レセプト業務をお願いするとかかる費用は、
- 新規開業、レセプト500件のクリニック:5万円~/月
- レセプト500件超1,000件のクリニック:15万円~/月
となっていますが、この金額の他に費用はかかりますか?
柳代表 かかりません。うちの場合は簡単で、「1件100円で処理します」という料金設定です。ただし、在宅診療の場合には、別の料金設定にさせていただいています。
- 施設対象の在宅診療の場合:500円/件
- 居宅対象の在宅診療の場合:1,000円/件
となります。
これは、在宅診療では通常の外来のレセプトと違って「複雑」になるからです。毎回処置が発生していたり、終末期医療が入ってきたりなど、先生の医療行為が濃密になるため、レセプトも細かくチェックしないといけません。そのため、このように設定させていただいています。
――御社に仕事を依頼してから実際に業務を開始するまでにどのくらいの時間がかかりますか?
柳代表 1カ月ほどいただいています。打ち合わせを2、3回行って、
- 現状で困っている点
- 現状の事務の流れ
- クリニック独自のルール
の3点を確認します。これらの点を確認してから業務に入るようにしています。確認終了後、先生・事務員の方とレセプト処理の方針を決めて、それに基づいて業務を行うという流れになります。
レセプト業務を通じて経営を考えましょう!
――クリニックの経営に取り組む医師・クリニック院長にアドバイスをいただけますか?
柳代表 コロナ禍で院長先生の「経営力」が試されています。今のところ「経営」という概念を取り入れているクリニックは数少ないですが、実は身近に魔法の杖があります。それが「レセプト」です。毎月の請求作業として終わらせるのではなく、クリニック経営を改善していく重要なツールとしてご活用することをおすすめします。
――ありがとうございました。
まとめ
レセプト業務をまるまる外部に委託してしまうと楽かもしれませんが、柳代表の言葉どおり、クリニック側のチェック機能が働かないということにつながりかねません。もし、レセプト業務の外部委託を考えているのであれば、この点についてもご一考ください。また、やはりクリニック院長は、レセプトが読めるようになった方がよいと思われます。そこには経営改善のヒントが隠されているかもしれませんので。
柳代表の著書が刊行されました。ぜひご一読ください。
「クリニック経営はレセプトが9割」(幻冬舎)4月30日発売
取材協力:「株式会社レゾリューション」