医師としてのキャリアの一つ。刑務所で働く医師「矯正医官」とは?
医師の皆さんは「矯正医官」という仕事をご存じでしょうか? 矯正医官は、文字どおり、刑務所などの矯正施設内で診療行為に当たる医師のこと。しかし、矯正医官についてはあまり知らないという人も多いのではないでしょうか。今回は、矯正施設で被収容者の健康を管理する「矯正医官」についてご紹介します。
矯正施設で診療を行う
矯正医官は、冒頭でも紹介したように「刑務所などの矯正施設内で診療行為を行う医師」です。例えば、刑務所内に設置された病院や診療所で被収容者の診療を行ったり、被収容者の健康診断を実施したりするほか、施設の衛生管理も担います。医療刑務所(一般的な刑務所では収容が難しい、専門医療を必要とする受刑者を収容する施設)では、専門医として治療に当たります。
刑務所などの矯正施設では、再犯・再非行防止のための各種教育や改善指導のほか、職業訓練が行われます。しかし、被収容者が健康でなければ,指導などを受けることも難しいため,再犯・再非行防止のための各種指導などの実施には,被収容者の健康管理が適切に行われていることが前提です。そのため、矯正局では「矯正医療は被収容者を改善・更生させるための基盤を構築するもの」として矯正医療を重要視しています。
また、結核やC型肝炎ウイルスといった感染症に罹患している被収容者も少なくありません。そのため、矯正施設内の安全や衛生の確保、さらには社会復帰後の二次感染を予防する意味でも、矯正医官が必要なのです。
意外と自由な働き方が可能
「刑務所で働く」と聞いても、どのような働き方になるのかピンとこない人は多いでしょう。どのような病気の診療を行うのか、治療は全て自分一人で行うのか、危なくないのかなど疑問も尽きないと思われます。
矯正局によると、刑務所では高血圧や糖尿病といった生活習慣病や腰痛を患っているケースが多く、少年院においては呼吸器系疾患の患者の割合が多いとのことです。基本的にこうした病気の診療を行い、専門的な治療や検査が求められる場合は、医療刑務所や外部の医療機関と連携して対応します。
また、診療に当たっては、看護師のほか、准看護師の資格を有する刑務官や法務教官が配置されており、診療時には必ず付き添うなどサポートを行います。そのため、殴られるような怖い状況に遭うことはないとしています。薬剤師や臨床検査技師などのスタッフが配置されている施設もあり、サポート体制は充実しています。
気になる勤務時間は8時30分から17時。自己申告に基づいて、勤務開始時間と終了時間を変更することも可能で、矯正施設外での兼業や調査研究も認められているため、自身の目的や都合に合わせた働き方もできます。
※矯正医官の働き方例
https://www.moj.go.jp/KYOUSEI/SAIYO/about/workinghours/index.html
キャリア形成にも役立つ
上で挙げた「目的に合わせた働き方ができること」を含め、矯正局では矯正医官の仕事にはいくつもの魅力があるとしています。まずは収入面。給与・手当を含む令和元年の全矯正医官の平均支給額は約1,400万円。希望により、施設に隣接する宿舎に無料で入居することも可能です。
ほかにも、1週間当たり38時間45分ある平日勤務時間のうち、最大19時間を外部医療機関や大学などでの調査研究・医療技術向上に充てることが可能。また、矯正医官は国家公務員の医師の中で特例として「兼業」が認められています。矯正施設での医療に従事しつつ、外部医療機関で働くこともできます。※勤務時間内の兼業は1週間当たり19時間が限度(その分の給与は減額)
矯正局によると、家庭生活との両立を希望する医師にも働きやすい環境であるとしており、例えば子供が3歳になるまでの育児休暇の取得や、子供が小学校主学の時期に達するまでの育児短時間勤務取得といった待遇も充実しています。
チャレンジングな課題がやりがいをもたらす
矯正医官の「やりがい」としては、司法・医療・福祉・教育・心理といった、他職種との連携があるため、幅広い関わりができることが大きいようです。一般的な診療施設とは異なる環境で医療を提供するため、時には創意工夫が求められます。乗り越えがいのある課題も多く、これも矯正医官としての働きがいにつながっているとのこと。また、少年院での医療を担当した医師の中からは、「子供たちの成長や、改善・更生する姿にやりがいを感じている」という声もあります。
刑務所など矯正施設で医療を担う「矯正医官」についてご紹介しました。社会貢献しているという自負を持ちながら働ける、非常にやりがいのある仕事とのこと。開業する場合でも、矯正医官として従事した経験は大きな財産となるでしょう。また、開業医を経て矯正医官になったという医師も多くいます。将来の選択肢の一つとして、矯正医官という仕事を覚えておくといいでしょう。
取材協力:法務省矯正局