なぜ無愛想、感じ悪いと言われるのか?患者さんに好印象を与える「話し方」改善術
「普通に接しているつもりが話しづらい、怖いと言われる」「若い頃は感じ悪いと思われていなかったはずなのに…」「院内の雰囲気がよくないとスタッフが退職してしまう」
患者さんやスタッフとのコミュニケーションに悩む院長は多くいます。「気をつけているつもりなのに」努力が伝わらず、もどかしい思いをしている方もいるのではないでしょうか。
「感じのよい接客・接遇のプロ」の代表格とも言えるのが飛行機の客室乗務員(CA)です。ANAビジネスソリューション株式会社は、ANAの客室乗務員の育成も担った経験豊富な講師が多数在籍。医療機関向けに特化したプログラムも手がけています。
この記事では、医療機関ですぐにでも実践できる接客、接遇のコツを解説します。患者さん、スタッフとのより良いコミュニケーションを行うヒントを学んでいただけたら幸いです。
※本記事に記載の情報は取材を行った2022年4月21日現在です。
回答者:山田 貴子氏(ANAビジネスソリューション株式会社/大阪支店・研修担当)
1989年ANA(全日本空輸株式会社)に客室乗務員として入社。約9年間国内線、国際線に乗務。国内・国際チーフパーサー資格、及びファーストクラスサービス資格を有する。現在はANAビジネスソリューションの研修の営業と講師を担当。
「相手の目を見て話す」は難しい!
相手に伝わる、また誤解を受けない話し方を身につける必要があります。コミュニケーション術について書かれた本や教材に多く書かれているのは「相手の目を見て話す」。
――これはコミュニケーションの基本ですよね。
山田:そうですね。目を見て話すコミュニケーションはどんな場面でも大切ですが、医療の現場ではなおさらだと考えています。
目を合わせてもらえないと相手は不安になりますし、冷たい印象を受けます。すると「本当は私の具合はもっと悪いのでは…」と無用な疑いにつながりかねません。
患者様は始めから不安を抱えているという前提で、先生の一挙手一投足、振る舞いのすべてが影響を与えることを意識するとよいでしょう。安心感が伝わるアイコンタクトや相槌の効果は本当に大きいのです。
――ただほとんどの先生が「診察中に相手の目をちゃんと見ている」と仰るかと思いますが。
山田:いえ、実際には違うんです。私どもの研修でも、
ということをお伝えした上で、医師役(スタッフ役)と患者さん役のロールプレイをビデオ撮影すると、皆さん「思ったほど患者さんを見ていない」と気づかれます。
もちろん電子カルテの記入、触診などがあるので、診察中にずっと患者さんの目を見続けるのは不可能です。ただアイコンタクトの時間は短くとも、柔らかい目線で患者さんと目を合わせる意識を高めてはいかがでしょうか。
なお「意識を高める」方法の一つとして鏡を置く場合があります。客室乗務員も裏方から客室に出る前には鏡を見てスマイルを確認しています。
次の患者さんを「待たせてしまう」焦りへの対策
日々の診療時間が限られる中で、1名の患者さんの対応に必要な時間が長くなるのを恐れる気持ちもあるでしょう。ただしこちらが焦れば焦るほど、患者さんとのコミュニケーションが逆効果になってしまう恐れもあります。
山田:医療スタッフの皆様は常に忙しい現場にいらっしゃるので、患者さんのお話に共感を持って聴くよりも先に、正確な情報を伝えたり、正しく説明をすることを優先される方が多いように感じます。そうすると気持ちの伝わらない冷たい印象を与えてしまいます。
きちんと「説明しなければ」「伝えなければ」と使命感を持つのは当然のことです。ただ、医療現場の方は忙しいので、つい急いでしまいますが焦りは禁物ですね。
――外来患者さんが多い、予約を待っている方がいる中で、仮に1人5分伸びたら10人で1時間近く余計にかかってしまいます。お話しをとめどなく続ける患者さんもいらっしゃいますよね。
山田:なかなか終わりを切り出しづらいですよね。「様子をみてまたいらしてください」と伝えるほかに、他のスタッフが気づいて「お話し中すみません…」と区切って差し上げる方法もあります。「このあと続きの説明を、別の者がいたしますね」などの言葉を決めておけば、可能な限り話を聴くという姿勢で統一できるかと思います。
「時間がないから早くさばく」という態度は見透かされます。もし「話半分」で聴いているようであれば患者さんにも伝わるため、それではいくら話しても満足してくださいません。多くの患者さんは「先生は皆を公平に診てくださっている」と理解されています。思いやりを持って向き合い、丁寧にお断りすれば「先生が忙しいのも分かっているけれど、私も安心したかった。話を聞いてもらってありがとう」と感謝していただけるでしょう。
第一印象が決まるまでの15秒に優しさを感じさせる
山田氏が研修で伝えていることが、第一印象の大切さ。対面してから15秒間が重要だと言います。
山田:第一印象を決めるまでの時間を質問すると3秒、5秒と答える方が多くいらっしゃいます。
――確かに。顔の好みや、服装、清潔感などは数秒で判断できそうです。
山田:はい。外見だけでなく、声の印象も大きいんです。「声をかけて、返答の1往復」でだいたい15秒ですね。
「こんにちは、どうされましたか」
「今日は~~~~なんです」
ここまでで15秒。つまりこちらの声のかけ方で相手が受ける印象は決まります。そして相手の返答で、こちらも判断しているんです。
相手の不安を和らげるのに有効なのは、相手の返答スピードに合わせて話すこと。相手のペースに合わせると、安心してもらいやすくなります。
全力で優しさを伝えていただきたいのが最初の15秒ですね。
――ここで信頼をつかめれば、また来てくださるかもしれませんね。
山田:飛行機の機内、飲食店でも自分がお客になったとき「期待値」を持って訪れるはずです。それはクリニックに来る患者さんも同じで、接したときの心地よさが期待を上回れば、今後も「この先生に診てほしい」と思われる可能性は高いでしょう。患者さんがドアを開けてからの15秒、ぜひ意識なさってください。
例えば小児科では、親御さんはお子さんの痛みが分からないから、ご自分の身体以上に不安になるものです。
まず子どもの目線と、自身の目の高さを合わせ話をしましょう。ときに親にも目線を向けることで親子双方の様子を伺う気持ちが安心感にもつながります。傾聴している、共感していると患者さんに伝わるんですね。
「常に見られている」から再診でも丁寧な言葉選びを
クリニックを度々訪れてくださる再診の患者さんの対応にも気を配るべきポイントについても教えていただきました。
――再診の患者さんは自分が覚えられているか気にしますよね?
山田:そうですね。受付で再診だと気づいたらすばやく「○○さん、診察券お願いします。月替わりですので、保険証もお願いできますか」とお名前つきで声掛けできれば、患者さんの安心感につながりますね。「またお会いしましたね」という距離感を伝えられるように、再診だと早く気づいたスタッフが声をかけるとよいでしょう。
もちろん医師、看護師はカルテの履歴も見られるので「今回はどうしました?」ではなく「先日の痛みはいかがですか」などの確認は効果的です。来院が2回目ということは、ある程度、信頼を寄せられている証です。しかし、まだ十分な信頼関係とまでは言えないため「この程度の状態で病院に来られたら困ると先生に思われないだろうか」と心配する方もいらっしゃいます。今後も長くお付き合いできるか、不安な気持ちをお持ちだということを想像して「心配ならいつでも来てほしい」と伝えるといいでしょう。
――一方で、距離を縮めるデメリットも認識する必要があるのですね?
山田:そうですね。一言で言えば、いつも丁寧な対応が無難です。
まず患者さんの中には、親しげに話すことを不快に思われる方もいるかもしれません。意外に多いのは、くだけた言葉遣いですね。人によってはぞんざいに扱われているように感じる可能性があります。とくに高齢の方に対して大きな声で「○○さん、だめよ~、□□してね~」「△△なんだよね~」など友達に話すような言い方をすると、一緒にいる家族が傷つく場合もあるのです。「現役時代は会社社長まで務めた父なのに…」などと思っても、口には出してくれないケースが多いでしょう。
また待合室などでなじみの患者さんとフランクに会話をすると、初診の方などが疎外感を受けやすい点にも注意。常に多くの方が見ている、聞いている前提の振る舞いが大切です。
接遇研修の出張サービスもある
山田氏によると「気をつけていても、そのうち薄まってしまう」のが難しさとのこと。ただ、クリニック内で定期的に接遇に関してのミーティングを行うなど、スタッフの想いを高めるのも有効とのことです。
なおANAビジネスソリューション株式会社では、東京・大阪で定期的に医療機関向けの公開講座「ベーシックマナーコース・トレーニングコース」を開催しています。合わせて2日間コースですが、1日だけのプログラムも受講可能です。
また、講師が各医療機関に出向いて研修を行う講師派遣も好評とのこと。クリニック側の想いと、患者さんの受け止め方のギャップを埋めるために、接遇の向上に組織で取り組むことをおすすめします。