認知症患者への対応

認知症患者への対応

私は、総合病院の外科病棟で働く看護師です。今回は、実際の一緒に働く看護スタッフの声や私の経験をもとに、術後の認知症患者への対応を紹介していきます。今後の患者への対応の参考になれば幸いです。

認知症患者の増加

日本は長寿国と言われており、日本人の平均寿命は年々上がっています。平均寿命が上がった要因の1つとして、医療の進歩が挙げられます。今までは治療法がなかった病気も、医療の発達によって治療法が確立して、より良い治療法が開発されたおかげで、延命が可能となり、寿命が伸びています。

高齢化が進んだ結果、身体の調子の悪いところが出てきて通院したり、入退院を繰り返したりしている人がほとんどです。身体と同じく、脳の方も衰えていくため、たとえ身体は何ともなかったとしても、高齢者の認知症の人数は、平均寿命に比例して増加しています。

入院による認知症の悪化

私の働く病院にも、認知症の患者さんは数多く入院しています。認知症の患者さんは、一般の患者さんに比べると環境に適応する能力が低いです。認知症の度合いにもよりますが、短期記憶が低下していたりすると、入院しても自分がなぜ入院しているのかわからなくなったり、そもそも自分が病院にいること自体わからなくなったりしてしまいます。

また、認知症がそこまで進行していなくても、入院によって認知症が急速に進んだり、せん妄を発症したりする患者さんも少なくありません。特に私の働いている病棟は外科病棟のため、認知症に不随して術後せん妄を出現してしまう患者さんが多いです。

認知症患者の手術

ここからは、認知症の患者さんが手術になった実際の事例を紹介いたします。その患者さんの名前を仮にAさんとします。Aさんは大腸がんの手術のために入院されました。既往には認知症があり、短期記憶の低下があり、物忘れが多い患者さんでした。入院したことで環境が変わってしまい、トイレに行くのにも迷ってしまうことがありました。

短期記憶の低下などがありましたが、温厚な方で、「あら、また忘れちゃった」といつもにこにこ笑っていました。認知症にもいろいろなタイプがあり、認知症を発症してから突然怒りっぽくなるなど性格が変わってしまう方もいますが、Aさんはそういったこともなく、穏やかな性格の方でした。

手術前

手術で入院したこともたまに忘れてしまうため、看護師が手術前日から「明日、午前中から手術がありますからね」と適宜説明していました。毎回Aさんは、「明日、手術なの!?」と目をぱちくりさせ、驚いた表情をみせます。自分が大腸がんであることも理解していないので「どこも悪くないのにね~」といつも笑いながら話していました。

術前は、麻酔科の医師の指示で21時から絶食、当日は6時以降は絶飲食になる指示でした。Aさんは短期記憶が低下していたため、万全の体制で手術を迎えなければと、看護師は消灯前に食べ物がないか確認して、冷蔵庫にあったものは全て、ナースステーションで保管することにしました。

起床後、6時以降は飲水もできなくなるため、Aさんに再度説明し、コップや飲み物も回収しました。しかし、洗面所がベッドの近くにあったため、Aさんは洗面所の水を飲もうとしていました。看護師がたまたま部屋に入ったときに気づき、危機一髪のところで止めることができました。Aさんはのどが渇いていたところで水を飲もうとしていた直前に止められてしまったため、「何するんですか」と、不愉快そうな表情で看護師をみます。「ごめんなさいね、今日手術で麻酔科の先生から指示があって、もうお水は飲めないんです」と丁寧に説明したところ理解してくれましたが、短期記憶がないため、すぐに忘れてしまい、このやり取りを何度かした末にいよいよ手術を迎えました。

手術後

手術は無事に終わり、Aさんは手術室から帰室しました。術後は、経鼻胃管カテーテルや点滴、腹部にはドレーンが何本か入り、膀胱留置カテーテルや心電図モニターなど、たくさんのルート類がありました。Aさんが麻酔から覚め、「無事に手術が終わりましたよ」と声かけしましたが、場所の把握や状況が理解できず、何が起こったのかもわからず興奮状態です。ルート類による違和感や創部痛、環境の変化などにより術後せん妄が出現してしまった状態でした。

術前は温厚だったAさんが、「なに、これ。家に帰る。どけろ!」などと、口調がまるで違います。これは、他の認知症患者さんや若い人でもあり得ることなのですが、術後にはせん妄状態になる人が結構います。

このような状態になると、ドレーンなどのルート類を抜かれるとまずいので、看護師は何度も訪室して安静にしているか確認したりします。夜勤はただでさえ少ない人数で業務量が多いので、このような患者さんがいると、患者さんの安全を守るためにも大変になります。

安静を守るために体幹抑制をして、ルート類の抜去を防止するために両手にミトンを装着して対応することもできるのですが、抑制することでさらに興奮してしまう患者さんも多いです。患者さんの尊厳を守るためにもできるだけ抑制はしたくないので、抑制は最終手段として選ぶことが多いです。

このときはコロナ流行以前で、家族の面会も制限されていなかった頃です。そのため、家族に連絡をして、夜間、付き添ってもらうことで、Aさんは安心して安静に休むことができました。普段一緒に生活している家族の存在は大きなものであり、家族が来てからは、いつものAさんに戻りました。

このように、術後は、認知症の患者さんは特に対応が難しいことが多いです。根気よく説明をして患者さんに理解してもらったり、ときには家族の協力も得て患者さんの安全を守っていったりすることが大切であると思います。

理想の医療現場

認知症の患者さんは年々増加しており、症状が悪化している患者さんであれば、ときには医療スタッフに暴言を吐いたり、暴力をふるってきたりするため、医療者側のストレスも大きいです。興奮している患者さんへの対応をするときには、看護師自身の安全を守るためにも、適度な距離を保つことや、武器になりそうな危険なものは身に着けず、患者さんの周りにも置かないことが大切です。

以前、新人であった後輩が首から聴診器をぶら下げていたのですが、認知症で興奮状態であった患者さんの対応中に、首からぶら下げていた聴診器をつかまれ、首を締められてしまったことがありました。必要な距離を保っておらず、危険になるようなものを身に着けていた後輩も悪かったのですが、このようなことがあれば看護師自身のトラウマにもなってしまうため、十分に配慮する必要があると感じました。

認知症の治療法は、まだまだ研究段階。症状を遅らせるような薬はありますが、症状を治す薬はまだ開発されていません。そのため、認知症患者さんとうまく付き合っていく必要があります。認知症の患者さんが安心して治療を受けることができ、医療スタッフの安全も守れるような体制が必要であると考えます。

今回の記事が患者の対応について考えるきっかけとなり、今後のより良い医療に繋がればと思います。

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