クリニックに必ず置かないといけない防火管理者とは?

クリニックの開業にはさまざまな手続きや許諾を取る必要があります。その中のひとつに「防火管理者を選任すること」が挙げられます。では、この「防火管理者」とはどんな資格で、どのように取得すればいいのでしょうか? 「一般財団法人 日本防火・防災協会」に聞いてみました。
防火管理者の資格とは
――「防火管理者」について教えてください。
消防法では火災予防の対象となるすべてのものを防火対象物として、それらを「用途」という形で全20項に分類しています。例えば、第1項は「劇場や映画館など」、第2項は「遊技場など」が分類されています。そして、この20項を「特定防火対象物」「非特定防火対象物」の2つに大きく分けています。特定防火対象物は、不特定の人が出入りする建物が該当します。一方、「非特定防火対象物」は、共同住宅など、出入りする人がある程度決まっている建物です。
その中で、第1項から第17項までのうち、「特定防火対象物」に該当する防火対象物は、収容人数が「30人以上(高齢者福祉施設などの第6項のロは10人以上)」、「非特定防火対象物」に該当する防火対象物は収容人数が「50人以上」の場合に、「防火管理者を選任して必要な業務を行うこと」が定められています。
――クリニックの場合はどうなりますか?
独立した建物としてクリニックを開く場合、防火対象物の用途区分では6項のイに該当します。収容人員が建物全体で30人以上であれば、防火管理者の選任が必要です。また、例えばビルのテナントを借りて開業した場合、もし、クリニックの収容人員が30人に満たない場合でも、ビル全体での収容人員が30人以上ならば、防火管理者を選任しないといけません。
――「防災管理者」という資格もありますが、防火管理者とどんな点が異なるのでしょうか?
「防災管理者」は、「共同住宅、(航空機の)格納庫、倉庫などを除く第1項から第17項の防火対象物」「地下街(延面積1,000㎡以上)」において、定められた階数と延べ面積以上の場合に、選任する必要があります。
――その場合は、「防災管理者」だけを置けばいいのでしょうか?
いえ、テナントとしてクリニックを開業する防火対象物は、収容人数が「30人以上」の「特定防火対象物」でもありますので、防火管理者も必要です。例えば商業施設の場合、各テナントにまずは防火管理者の資格を持つ人を置くことが求められ、さらに防災管理者の資格を持つ人もそれぞれのテナントごとに選任する必要がある、ということです。もし、大規模な商業施設のテナントを借りて開業する場合には、防火管理者と防災管理者の資格が必要です。
なお、防災管理者の選任が必要な場合は、防火管理者とは別の方を選任するということではなく、防災管理者が防火管理者の業務を併せて行うこととなりますので、お一人の方を防災管理者及び防火管理者に選任してください。
――防火管理者が必要かどうかはどのように判断すればいいのでしょうか?
クリニック開業時には、消防法で定められた「防火対象物使用開始届出書」を開業する地域の消防署に提出する必要があります。その際に防火管理者の選任が必要か否かの指導があるので、指導に従って資格を持つ人を選任するといいでしょう。
防火・防災管理者になるには?
――防火管理者になるにはどうすればいいのでしょうか?
防火管理者に選任されるための要件は以下の2つです。
- 防火管理業務を適切に遂行することができる「管理的、監督的地位」にあること
- 防火管理上必要な「知識・技能」を有していること(防火管理講習修了者、学識経験者など)
つまり、「管理的、監督的地位」にある人が、防火管理上必要な知識を有している場合に防火管理者に選任することができるわけです。このうち、「2」の防火管理上必要な「知識・技能」については、「防火管理講習」の課程を修了することにより得られます。
――防火管理講習を受ける方法を教えてください。
防火管理講習を受ける方法は2つあります。1つ目は地域の消防本部(局)が行っている講習を受講すること、2つ目は私ども「一般財団法人 日本防火・防災協会」が行っている講習を受けることです。これは地域によって異なるため、開業する地域の消防本部(局)に問い合わせるといいでしょう。
防火管理講習は、2日間講習を受ける「甲種防火管理新規講習」と1日間の「乙種防火管理講習」、再講習が義務付けられている防火管理者の方が受ける「甲種防火管理再講習」の3つです。甲種は全ての防火対象物で防火管理者に選任でき、乙種は、防火管理者に選任できる防火対象物が比較的小規模なものに限られます。受講料は甲種が8,000円、乙種と甲種再講習が7,000円です。
――防災管理講習についても同じような流れなのでしょうか?
防災管理講習は、すでに甲種防火管理者修了資格を有する人が受ける「防災管理新規講習」と、甲種防火管理新規講習と防災管理新規講習の修了資格を同時に取得するための「防火・防災管理新規講習」。すでに両方の資格者であり、再講習を受ける必要のある人に向けた「防火・防災管理再講習」の3つです。防災管理新規講習は1日間、防火・防災管理新規講習は2日間、再講習は半日で行われます。受講料は防災管理新規講習が7,000円、防火・防災管理新規講習が10,000円、再講習が7,500円です。
――資格を有している場合は必ず再講習を受けないといけないのでしょうか?
資格を有しているだけなら再講習を受ける必要はありません。防火・防災管理者を選任することが義務付けられている建物で、防火・防災管理者に「選任された」場合、「講習修了日以後、最初の4月1日から5年以内」に再講習を受ける必要があるのです。
すぐに受講できない場合もある
――防火・防災管理者講習を受ける際の注意点を教えてください。
気を付けていただきたいのは「スケジュール」でしょうか。クリニックの場合、開業日が決まっていると思いますが、防火・防災管理者講習は申し込んですぐに受けられない場合もあります。防火・防災管理者は多くの事業所で必要な資格ですが、現在はコロナ禍で講習会場での受講者数が制限されていることからなかなかご希望通りに受講できない状況です。
――開業時に資格を有した人がいないと違反になってしまいますね。
そうした事態を避けるためにも、余裕をもって受講していただきたいと思います。「一般財団法人 日本防火・防災協会」のHPでは、Q&Aなども掲載していますので、そちらも参考にしていただきたいですね。
――ありがとうございました。
30人以上を収容するクリニックを開く際に必要な防火管理者。また、大きな商業施設のテナントの場合は、防火管理者だけでなく防災管理者を選任する必要もあります。これから開業を考えている医師は、今回の記事を参考に、防火・防災管理者資格の取得スケジュールを考えてみてはいかがでしょうか。