不仲な家族への対応の難しさ
私は総合病院の外科病棟で働く看護師です。入院する患者さんにとって、支えてくれる家族の存在は非常に大きなものです。しかし、家族にはさまざまな形があり、中には、家族仲が悪い患者さんもいます。今回は、不仲な家族への対応の難しさについて、実際の私の体験を通して紹介していきます。今回の記事が患者や患者を支える家族への対応の参考になればと思います。
家族のあり方
みなさんにとって、家族とはどのような存在ですか。この質問に対する回答は家族の数だけあり、家族の関係性はそれぞれ異なると思います。家族の形はさまざまであり、何が正しいとか正しくないといった概念はなく、それぞれの形があっていいと思います。
年末年始に必ず集まる家族の形もあれば、もう何年も会っていないといった家族の形もあると思います。家族といっても、配偶者や子どもがいない場合には、キーパーソンが兄弟になったりするケースもあります。
このように、家族のあり方や家族の形は、それぞれ異なることが当たり前であり、関係性についても、自分から話してくれる患者さんもいれば、家族のことはあまり触れてほしくないといったような様子の患者さんもいます。
家族の存在が大きく、家族のサポートがあるからこそ、頑張れる患者さんもいれば、家族との関わりが薄く、家族に入院したことすら伝えていない患者さんもいます。
家族の対応の難しさ
家族の関係性にはさまざまな形があり、仲の良い家族もいれば、家族間の関係性が良好ではない患者さんもいます。家族の数だけ個性があるため、臨機応変にその家族に合った対応をしていかなければいけなく、時には家族対応でトラブルになってしまうこともあります。
今回はその中から、不仲な家族の対応の難しさについて紹介していきます。実際に私が対応した事例をもとに、次の章で紹介していきたいと思います。
家族内で意見が合致しない
外科病棟に入院しており、状態も良くなり、退院が決定した患者さんについての事例を紹介します。この患者さんは、70歳代の女性だったのですが、娘が2人いて、近くに住む次女が主に患者さんのお世話をする予定でした。長女は、離れた場所で暮らしているため、直接的な患者のお世話はできませんが、母親のことが心配で長期休暇を取って面会に来ていました。
キーパーソンは長女だったため、長女に退院後の相談などをして退院後のサービス調整をおこなっていたのですが、長期休暇が終わり、長女は遠く離れた自宅へと帰っていきました。その後も何度か家族とのやりとりが必要な場面があり、長女に連絡をしましたが、長女も仕事をしていたためなかなか連絡がつかず、繋がらなかった際には、入院時に確認していた次女に連絡をしました。
長女が帰宅したあとに、患者さんの状態も回復し、術後に低下していたADLも元の状態に戻り、介護認定は通らないような状態まで体力や筋力も上がっていました。そのことを次女に伝え、さらに以前は、退院後、施設入所や介護用品のレンタルサービスなども検討していましたが、それも今の状態では必要ないことを次女に伝えました。次女は回復したことを喜び、近くに住んでいるため、「身の回りのお世話は、私に任せてください」と話しており、自宅退院の方向で退院を進めていっている段階でした。
後日、長女から折り返しの電話があり、次女に自宅退院のことを伝えた旨を話すと、なぜ自分に最初に話してくれなかったのかと不満を訴え、話がなかなかかみ合いませんでした。いろいろと話したところ、実は姉妹間の仲が悪く、家族間での話し合いが出来ていなかったことを知りました。
長女は、母親のことが心配であり、独居のため施設入所を希望していました。しかし、最終的に自宅退院になったことに対しては、独居で本当に生活できるのか不安を持っている様子でした。この理由としては、介助が必要な状態の母親しか見ていなく、自分が帰ったあとに状態が回復した姿を実際には見ていなかったため、不安が強かったのだと思います。
実際に面倒をみるのは近くに住む次女ですが、遠方に住んでいる長女が、毎日電話でサービス調整についてや、自宅退院で本当に良いのかを確認してきていました。家族間の意見が合っていないため、こちらも動くことができず、まずは家族同士で話し合い、どうしたいのか、意見をまとめてほしいことを伝えました。結局は、患者さん本人と次女の希望通り、自宅退院が決定したのですが、これが決まるまでには、家族間の意見がなかなか合わずに大変な思いをしました。
このように家族関係が悪く、家族の意見が一致しない場合、家族との対応の難しさを感じることは少なくありません。
家族間でたらい回し
次に紹介する患者さんは60歳代の男性で独居の方。キーパーソンは兄弟でした。兄弟の数は多く、4人程の兄弟の連絡先をいただいていました。術前のインフォームド・コンセントの際に、どなたか家族の方に来てほしいことを本人に伝えると、自分で連絡することをなぜか拒んでいる様子です。「みんなそれぞれ忙しいからな」とのことでした。
私の働く外科病棟では、手術の前に家族も含めたインフォームド・コンセントをおこない、手術当日も、原則何かあったときのために、手術が終わるまでは家族に待機してもらう決まりとなっています。
しかし、この患者さんは一向に自分から連絡してくれなかったため、結局、こちらから家族に連絡をしました。兄弟4人に連絡したのですが、「自分は忙しいから他を当たってくれ」とのことで、電話越しでも声のトーンから怪訝な表情が浮かんでくるような様子でした。結局、たらい回し状態となり、誰が来るのか決まらず、家族間で話し合ってもらうことになりました。
最終的に来院したのは患者さんの弟だったのですが、来た瞬間から怒っており、「急に呼ばれても困るんだよ。早く帰りたいから先生を早く呼べ」との一点張りでした。電話で医師は、急患の対応をしていることもあるので、来てからお待たせしてしまう場合もあることを伝えていました。
実際に救急外来での対応中だったため、家族の方には待っていてもらう選択肢しかなかったのですが、「呼んどいて待たせるとはどういうことだ」と怒鳴り、事情を説明しても、「それは、病院側の都合だろうが!」と激怒していました。
患者さん本人を連れてきて2人で待機していただいたのですが、その間もずっと兄弟で言い争いをしています。弟の言い分は、「急に呼ばれても困るのと、どうして自分が来ないと行けないんだ」というものでした。しかし、患者さん側は、具合が悪くなりたくてなったわけでもなく、忙しいこともわかっているが、「病院側から家族を呼ばないといけない決まりと言われて仕方なかった」との言い分です。患者さんの言っていることは最もなのですが、弟の理解は得られず、最後まで怒りながら帰っていきました。
家族関係までは細かく確認はしていなかったため、不仲になった原因はわかりませんが、高齢な兄弟がけんかをしている様子を見て、私たち医療スタッフは悲しくなり、家族は大切にしないといけないことを実感した瞬間でした。
家族への関わり方のポイント
家族環境は患者さんごとに異なるため、何が正解であるかは、正直、私にもわかりません。しかし、今回のような事例を通して、家族との関わりで注意すべき点を考えるきっかけになりました。
患者さんとのコミュニケーションの中で、まずは家族の関係性を知ることが大切であると思います。その結果、家族関係が悪かった場合には、それなりの対応を考えていくことが必要です。
また、家族間での意見が一致しているのか確認し、意見が食い違っている場合には、医療スタッフが間に入り、家族全員が納得いく形になるようにサポートする必要があります。家族の中で納得していない人がいると、あとあとトラブルになる原因にもなりますので、ここの部分はしっかりと確認していくことが大切です。
何らかの理由で家族が来られない場合には、家族の代わりとなるキーパーソンはいないのか、患者さんに確認して対応していくことも必要です。
理想の医療現場
私の考える理想の医療現場とは、患者さんやその家族が納得した形で、医療を受けられることです。本来であれば、家族のサポートや協力体制が十分に整っていれば、患者さんの回復も促進され、精神的にも家族がいることで大きな支えとなります。そのため、本来であれば家族のサポートを受けられることが患者さんにとっては、最も良いことであると思います。
しかし、家族の形はそれぞれであり、家族の協力が得られなかったり、家族関係が悪く、面会に来たとしても、返って患者さんにとってストレスになったりするケースもあります。そのような場合には、無理に家族との関わりを持たせようとせずに、患者さんや家族の思いを優先した対応も必要になります。
家族は近い存在だからこそ、いることが当たり前となり、時には本音でぶつかり、けんかになってしまうこともあります。家族が病気になったりした際に協力できるかどうかで、本当の家族への想いや家族の存在意義に気づかされることもあると思います。
家族へのサポートのポイントを以下にまとめます。
- 家族それぞれがどのような考えを持っているのか引き出す
- 家族間のコミュニケーションの方法を助言したり、話し合いの場を設けたりする
- 患者や家族の気持ちを優先し、思いを受け止める
- 最終的には、家族全員が納得のいく形になるように話し合いをする
今回の記事が患者や患者の家族への対応について考えるきっかけとなり、今後のより良い医療に繋がればと思います。