小さな町の病院に毎年5名以上採用!その採用術とは
看護師は、患者さんと医師の間に立つ、仲介的役割を果たしています。
医師に相談しにくいことでも、看護師であれば、いつでも相談がすることができます。
医療の現場において誰よりも患者さんの近くにいるのが、看護師という存在なのです。
看護師が重要視されるわけは?
医療現場における医療従事者らの重要な責務が、患者さんの状態を把握し、異変を感じたら早急に対処することです。
看護師は、医師の処置や補助にもつきますが、一番果たすべき役割はそれではありません。
「患者さんの観察」が最も重要な仕事なのです。
病気やケガで入院した患者さんが、安心して入院生活を送れるように常に観察して、患者さんが困ったことがあればすぐに対応します。
また、処置などをおこなった後にも、処置後の経過観察をおこない、身体的にも精神的にも苦痛を和らげられるようケアします。
医師も患者さんを診察しますが、常にそばにいるわけではありません。
一方、看護師は常に患者さんのそばにいてコミュニケーションを図っています。
積極的にコミュニケーションを図ることで、体調の変化も敏感に察知することができるのです。
異変を感じれは、すぐに医師へ伝えることができるので、それによって救われる患者さんも多いです。
常に患者さんの近くで接している看護師の存在は重要なのです。
重要とされる看護師獲得は大変? 田舎の病院のメリットとデメリット
いくら看護師の存在が重要だとわかっていても、勤務してくれなければ意味がありません。特に田舎の病院の場合、看護師の採用が難しいのが現状です。
もちろん、田舎だからといって全く看護師が来ないわけではありませんが、看護師獲得は大変なことです。
そこでまずは、看護師の目線に立って、田舎の病院におけるメリットとデメリットをみていきましょう。
田舎の病院のメリット
- 土地があるため、病院寮が充実している
- 自然が多くて静か
- 街の人とのつながりがある
- 無駄遣いが減る
- 人や時間がゆっくり
では、それぞれの項目について詳しくみていきます。
職員寮が充実している
市内や都心の場合、寮も設けていない病院もあります。その場合、勤めている人の多くはアパートなどに住んでいます。しかし、田舎は土地がいくらでもあるため、病院の寮をいくつか隣接しているところもあります。
新人看護師は、すぐに夜勤を任されることもないため、金銭的にも不安を抱えやすいです。
アパートを借りるよりも寮を借りたほうが、明らかに安く節約にもなります。
そのため職員寮があることは喜ばれるのです。
自然が多くて静か
遊ぶ場所もなく、買い物を不便と思う人とは逆に、人混みが嫌いで静かに暮らすことが好きな人もいます。
田舎は都会と比べて、電車や車の交通量は格段に少なくなります。
聴こえてくるのは、虫の声。
田んぼや畑も多いですが、何よりも緑が多く、それを見て癒される人も少なくありません。
ストレス社会が多い世の中で、癒されるために自然が多い田舎を好む人もいるのです。
街の人とのつながりがある
田舎では近所の人に声をかけてもらうことも多いです。
見知らぬ人でも、すれ違ったときにあいさつをしてくれたり、農家さんと付き合いが多くなってくると差し入れを持ってきてくれたり、何かとよくしてくれます。
また、町内の情報を教えて聴いて楽しむこともできるのです。
基本的にコミュニティーが狭いので、共通の知人がいることもあり、そこから新しい繋がりが生まれることもあります。
無駄遣いが減る
都会から来た人は「無駄遣いが減った」と口をそろえて言います。
これは単純に「帰宅途中に寄る場所がないから無駄遣いをしなくなった」ということでもあるでしょう。その結果、「(貯金が増えて)買いたい物が買えるようになった」「寄り道して食事にお金を使わないから体重が減った」という人もいます。
人や時間の流れがゆっくり
田舎は人の流れが少ないため、時間がゆっくり過ぎていくような感覚を覚えます。
仕事は「全く暇」ということではありませんが、目が回るような忙しさが1日中続く日は少ないでしょう。
時間の流れがゆるやかに感じられると、おのずと精神的にも落ち着き、ストレスも感じづらくなります。
続いては、田舎の病院に勤めるデメリットをみていきます。
田舎の病院のデメリット
- 交通機関が少ない
- 遊ぶ場所もなければ、買い物も不便
- スキルアップができない
では、それぞれの項目について詳しくみていきます。
交通機関が少ない
- 遠出したくても、駅や空港へのアクセスが不便
- 電車やバスの本数が少なく、乗り継ぎが多い
- 高速道路までの距離も遠い
田舎で生活するならマイカーは必携です。
都心や市内での生活が長かった人の中には、マイカーを持っていない人も多くいます。
マイカーは持っているだけでもお金がかかります。
そのため、節約を考えている人にとっては、交通機関が少なくマイカーが必要な田舎は好ましくないともいえるでしょう。
遊ぶ場所もなければ、買い物も不便
コンビニやショッピングモール、ファーストフード店やカフェも少なければ、映画館やカラオケ店といった娯楽施設も少ないです。
買い物1つするにも隣街まで行かなくてはならない場合が多いのです。
見回す限り田んぼと畑ばかりで変わらない景色に、都会慣れした人は驚かれることも多いです。
また、飲み会をするにしても、どの店も閉店が早く、二次会に行くにも店が開いていません。
二次会を諦めて家に帰るにしても終電も早く、すでにタクシーもいないことも日常茶飯事
今は、インターネットによって、たとえ近くに店がなくても、家にいながら多くの物が買えるようになりました。
しかし、同時に家から出る機会も減ったという声も聞きます。
買い物や遊びに出かけて、友人などと“見て、触って、話して、楽しむ”ことはストレス解消にもつながります。
インターネットがいくら普及して便利になったとしても、外に出る機会が減ることでストレスを感じ、田舎には行きたくないと考える人も実際にいるのです。
スキルアップができない
田舎では、大学病院のように病床数や診療科目が多い病院は少ないです。
そのため、患者さんが運ばれてきても、対応が難しいと他の病院へ移されることも少なくありません。
そのため、自院の専門外の疾患の患者さんに接する機会がなく、学ぶことができないのです。
看護師になったばかりの頃は、誰もが高度な知識や技術を身につけスキルを磨きたいと考えます。
そのため、診療科目が多く、重症患者さんを受け入れできる大学病院や、私立、公立といった病院で学びたいと希望する看護師は多いです。
小さい田舎の医院で毎年どのようにして5名以上の看護師を採用したのか?
それでは本題です。
わたしが勤めていた医院では、毎年看護師を募集していました。
しかし、毎年入職する看護師は1~2名。
年によっては0名ということもありました。
このままではずっと看護師が入職してこないと考えた看護部は、対策を練りました。その対策とは以下です。
- 医院の名前を知ってもらう
- 他の病院との差をつける
- 魅力的に感じてもらう
- おもてなしをする
具体的にどのような対策を取ったのかについてもお話します。
医院の名前を知ってもらう。
まずは、医院の名前を知ってもらわなければなりません。
どのようにして名前を知ってもらおうかと考えた結果、看護師が行く場所に足を運ぶことにしました。具体的には以下の行動をとりました。
- 看護学校に足を運び、医院の紹介をする
- いくつかの就職説明会に参加し医院の魅力を伝える
看護学校や就職説明会に足を運んだのには、もう1つ目的があります。
医院を紹介することで、医院の見学に来てもらうことです。
また、就職説明会などでは、医院の魅力を伝えると同時に田舎のメリットとデメリットもお話ししました。
そして、見学に来て頂いた際には、どんなに遠くだろうが、交通費は全額支給すると話したのです。
他の医療機関と差をつける
他の医療機関と差をつけるために以下のことを伝えました。
- 残業代はすべて支給
- 有給休暇消化率100%
- 研修費用はすべて支給
- 自分や家族の体調不良があれば必ず休みを取らせる
- 希望があれば職員寮は必ず準備する
残業代はすべて支給
医療従事者の中でも、看護師は超過勤務が多いです。
多くの病院で、「残業はやって当たり前」とされています。
なぜなら、すべての看護師に全額支給していたら、病院としての利益もなくなってしまうからです。
そのため病院によっては、「8時間以上は残業手当を出さない」、「1時間未満の残業は残業として認めない」としているところもありますし、「何も言われず残業代をカットされていた」といったことも少なくありません。
おそらく、多くの看護師は残業代をすべて申告することができず、サービス残業をしているかと思います。
しかし、この医院では残後代は5分刻みで申告が可能としていたのです。
これを聞いた看護師は、正直驚いたでしょう。
特に病院で働いていた経験がある看護師であれば尚更です。
このように掲げている病院は他にはないからです。
有給休暇消化率100%
有給休暇は働けば働くほど増えていきます。
しかし実際に有休を使用できることは少ないです。
自分の有休がどれだけあるのかわからない、知らされていない、といった人も多いでしょう。
いざ有休を使用しようとすると、「人が足りていないからダメ」「何であなただけ休みを多くしなくてはならないの」「休みはあげられない」と却下され、気がつけば有休の上限を超え、捨てられていたという人も多いです。
たとえ体調が悪く休みたいと思っても、人数の関係上、休めないというのが現状なのです。
中には、1日いくらといった買取をおこなう医療機関もありますが、捨てられることの方が多い印象です。
そんななか、この医院では、ワークライフバランスを充実させるためにも、有給消化率100%を掲げました。
1年間全く有休を使用せず、翌年に繰り越していたとしたら、その有休分は必ず、すべて消化させるとしたのです。
自分や家族が急に体調不良になった場合のことを考え、有休をストックしながらも最終的に使い切ることができます。
これは、看護師にとっても魅力的です。
研修費用はすべて支給
医療は、日々発展しています。
常に新しいことを学ぶ必要があります。
そこで、看護師たちも院外の研修に参加して学んでいます。
研修は、看護師の多い都会で開催されることが多いですが、問題となってくるのが交通費です。
田舎から交通機関を乗り継いでいくと、高額になってしまうからです。
また、参加したい研修があっても、あまりにも遠いと諦めざるをえません。
そこで出した案が、交通費、宿泊費はすべて医院で負担し、研修日は休日扱いではなく勤務扱いにするという案でした。
勉強熱心な看護師は年に何回も研修へ参加するので、金銭的な負担も大きいです。
これを医院側が負担してくれるとなると、助かることは間違いありません。
研修参加後には、学んだことを医院内で共有すれば、看護師全員のスキルアップにつながりますしいいことづくしです。
自分や家族の体調不良があるときは必ず休みを取らせる
看護師の数はギリギリのため、欠員がでると周りの業務負担が増えます。
そのため、「熱がでて身体が辛い」「子供や祖父母の体調が悪いから病院に連れていってあげたい」といった理由があったとしても「人数が少ないから休みはあげられない」と言われ、休むことができないこともあるのです。
どんなに熱がでて辛くても、感染症の疑いがない限り、薬を飲みながらでも勤務していることがあります。
しかし、看護師は身体が資本の職業です。
この医院では、自分の身体や家族の身体を大事にしてこそ、仕事をすることができると考えています。
また、「体調が悪くなることがあるのはみんな同じであり、休んだときにはカバーし合う」「お互いさまの気持ちで助けあう」ということを大事にしています。
体調不良であれば休みを取らせ、仕事中でも調子が悪くなれば早退させ、家族の体調が悪く、面倒を見る人がいない場合も休みを取らせます。
ここまで自分や家族のことを考えた医療機関も少ないでしょう。
希望があれば必ず職員寮は準備する
職員寮も設けた医療機関はたくさんあります。
職員寮は職場のすぐ近くに設けていることが多く、本来の家賃の1/3程度で借りることができます。
病院から近いため、徒歩で通勤できて交通費もかかりません。
しかし、「近くに実家がある」「通勤距離が短い」「空きがない」などの場合、借りたくても借りられないこともあります。
入職したばかりの看護師は金銭的にも大変です。
高額な家賃や光熱費を払えば給料はなくなってしまい、生活も大変になってしまいます。
また通勤距離が長くなれば、身体にも負担もでてくると考えていました。
そこを考慮し、職員寮が満室であったとしても他のアパーㇳの一部を借り、職員寮と同じ家賃で貸すのです。
徒歩で出勤という距離まではいきませんが、助かっていることは間違いないでしょう。
魅力的に感じてもらう
この医院の説明会や見学に来たとき、どんなところに魅力を感じてもらいたいかを職員で話し合いました。
職員がまず思いついたのは、ここ数年間、旦那さんの転勤以外で退職した人が0人ということです。
離職率が低いということは、職場の環境が良いというイメージにもつながります。
これを一番の魅力として伝えていくのはどうかと考えたのです。
一般的に看護師は、人間関係に悩み退職するケースが後を絶ちません。
しかし、この医院が人間関係に悩み退職した人がいないと説明すれば、大きな魅力になると考えたのです。
おもてなしをする
医院に見学にきた人には「来てくれてありがとう」という気持ちで必ずおもてなしをします。
交通費用は全額お渡しし、昼食を一緒に食べたり、泊りで見学に来てくれた人には、夕食時に外食に誘ったりして、おもてなしをするのです。
そして、その地域で有名な娯楽施設のクーポン券や無料チケットをお渡して、また来て頂く機会を作るのです。
必ずしも見学に来た人たち全員が入職してくれるわけではありませんが、それでも魅力的な職場であることを知ってもらうよい機会にはなります。
差をつけたことで採用者数は安定
以上のように他の医療機関と差をつけたことで、田舎でありながら採用者は増加していったのです。
今でも入職してくる看護師は年に3~5名と安定していますし、特別な理由がない限り退職者もいません。
中には食事やチケットを目的として見学に来る人もいるので、毎年方法を変えて医院の魅力を伝えています。
今はさまざまな理由から看護師を離れる人が増えていて、潜在看護師は70万人を超えていると言われています。
その中には、人間関係、給料、休暇などの不満により、離れていった看護師もいるでしょう。
看護師が足りないと言いながらも、悪しき状況を改善しようとしない医療機関も多いのが現実です。
足りないから看護師が重要とされている部分もあるのだと思います。
今後、このような採用術を考えられる医療機関が増えていけば、潜在看護師は減り、国や地域、人々に貢献していけるのではないでしょうか。