精神科医に向いている人とは
「精神科」と聞いてみなさんはどのようなイメージを浮かべますか?怖い、暗い、近寄りたくないなど、あまり良い印象を持たれることが少ない精神科。そんな精神科で医師として働くのは大変なことの連続です。精神科医として働くのは並大抵の精神力では難しいことも。今回は、精神科医に向いている人とはどんな人なのかを紹介します。実際に精神科病棟で働いていた私が経験した、リアルな体験談を交えて紹介しますよ。
人の話を聞くのが得意な人
精神科で働くなら、人の話を聞くのが得意な方が良いでしょう。精神科患者さんは話が長い傾向にあります。というのも、病気の症状で思考が止まらなくなってしまっている方や、自分が何を話しているか理解するのが難しい方もいるからです。そういった精神的な症状を抱える患者さんの話はなかなか終わらず、さらに内容も理解不能なことが多いです。現実か妄想かよく分からない話を長時間聞いていると、こちらの精神も参ってきてしまいます。
話を聞くのが苦手な人からしたら、毎日長話を聞き続けるのはほぼ拷問のようにも感じるでしょう。普段から聞き役が多い方や、話すのは得意じゃないが聞くのは得意、という方は精神科医に向いています。うんうん、と優しく相槌を打ちながら患者さんの話を聞けるお医者さんなら、精神科でもきっとうまく働くことができます。患者さんからしても、よく話を聞いてくれる先生のほうが嬉しいですよね。
せっかちじゃない人
せっかちじゃない、というのも精神科で働く上で大切な条件です。精神科患者さんの行動は予測不能で、一つの動作を完了するまでにかなり長い時間を要することも。動作に時間がかかってしまうのは、精神科疾患の症状である思考停止などから引き起こされますので仕方のないことです。病状なので、急かしても患者さんを困らせてしまうだけですので、じっくりと待ち続ける必要があります。
私が勤務していた病院では、入浴に特に時間がかかりました。病気で苦しんでいる患者さんにとって入浴は体力を消費しますし、着脱などの複雑な動作があるのでかなり脳が疲れます。途中で思考停止し、行動が止まってしまう方も多くいました。1人の入浴に1時間以上かかることも日常茶飯事です。中には「しなければいけない」と脳を義務感に支配されている患者さんもいます。
これは強迫性障害という病気なのですが、頭を10回洗わなければいけないなど、自分の中のルールに苦しめられていますので、入浴時間もかなり長くなります。あまりにも入浴時間が長い場合は、体が冷えてしまう心配もありますのでお手伝いさせていただくこともあります。ですが基本的には、自立を促すためにどんなに時間がかかっても見守るしかありません。
患者さんの診察があっても、医師は入浴が終わるまでひたすら待たなければいけません。せっかちな人ではしびれを切らしてしまうと思います。私が勤務していた病院のとにかく穏やかな先生は、お風呂場のすぐ外に椅子をおいて1時間以上患者さんを待っていたことも。気が長い人でないと精神科医は務まりませんね。
優しい人
精神科医には優しい人が向いています。というのも、精神科患者さんは目には見えない病を抱えています。苦しみの程度は患者さん自身しか分かりません。目には見えない苦悩を汲み取り、辛さに寄り添える優しい人でないと精神科医は務まらないのです。また、精神的な病を抱えている患者さんの心はとても繊細です。繊細な心は何気ない言葉でも傷ついてしまうもの。優しい言葉をかけられる医師は、患者さんにとって心強い味方になりますので、精神科では心優しい医師の存在が求められます。
地道に勉強を続けられる人
精神科の治療は日進月歩です。日々、新しい治療方法が出て、時には昔ながらの治療法がいきなり禁止されることも。精神科で有名な治療法に電気けいれん療法というものがありました。名前を聞くと、何だそれは? と思う治療法ですが、精神科に携わっている人からすると昔から馴染みのある治療法です。頭部に電気刺激を流すことで痙攣発作を引き起こさせる治療法で、うつ病や統合失調症に効果があると考えられてきました。ですが、この治療は今現在は大きく見直され、「修正型電気けいれん療法」と名前も内容も変更されました。なぜかというと、副作用の骨折事故が問題となったからです。
このように、長く信頼されていた治療法でも、研究によってそれに対するがらりと意見が変わることもよくあります。精神科は目に見えない病を扱うため、治療法も多種多様。変化に対応できるよう地道に勉強を進められる方が精神科医に向いています。
メンタルが強い人
精神科で働いていると、「精神科疾患に引き込まれない?」とよく心配されます。実際に精神科で働いている方の中には、精神科疾患を発症して辞めてしまう方もいます。というのも、精神科患者さんは妄想の世界で生きている方も多く、話す内容が全て現実には起こっていない妄想的なことだったりします。毎日のように現実には起こっていないことを、あたかも本当にあるかのように語られていると、医療者側も混乱してしまうことがあるのです。メンタルが強い、ある程度割り切れる人でないと精神科で働くのは難しいでしょう。
潔癖症じゃない人
精神科病院と潔癖症の相性は最悪です。精神科病院と聞くと真っ白な壁で清潔感に溢れているイメージをする方もいるかと思いますが、実際は違います。精神科で働いている人に聞くと"あるある"として語られるのが排泄物でのトラブルです。精神科病院では、排泄物にまつわる悲劇が日常的に起こります。私が勤務していた病院でも、毎日のように排泄物が原因の問題が起こっていましたね。信じられない話ですが、排泄物で遊んでしまう患者さんはとても多いのです。掃除をするのはもちろん私たちですので、ある程度不潔なものへの耐性がないと耐えられないと思います。
私が勤務していた病院には王子様のような医師がいたのですが、極度の潔癖症でした。優しく丁寧な先生で看護師からも患者さんからも好かれていました。素敵な先生ですが、不潔な状況がとても苦手な潔癖症の先生でした。患者さんが排泄物で遊んでいたときには部屋に近づけなかったようで、ナースコールで話していましたし、間違って先生の白衣に便がついてしまったときは、悲鳴を上げて病棟から出ていってしまったほどです。潔癖症の人にとって、精神科で働くのは拷問に近い苦行となると思います。潔癖症の方は精神科医には向かないでしょう。
小心者じゃない人
精神科で働いていると驚くことがたくさんあります。患者さんの予測不能な行動には毎回心臓が止まりそうになります。どうやって登ったのか分からないような高いところに登っていたり、シーツを破いて編み物をしていたり、なぜ?ということが日常的におこなわれているのが精神科です。私は比較的小心者なのですが、事あるごとに驚きすぎて心臓が持ちませんでした。いろんなことに驚いてしまう、というのが精神科を辞めた理由の一つでもあります。
働いていた頃に一番驚いたのは、入院してからずっと意識のなかった患者さんが廊下を走る姿を目撃したときです。点滴をしていたのですが、点滴を台ごと抱えて、廊下を爆走していました。二度見三度見どころの話ではなく、状況が掴めずかなり混乱したのを覚えています。どうにか気を持ち直して対応しましたが、まさかということが起こるのが精神科。常識なんて通用しません。そんな事件性に溢れた精神科で働くには、何があっても怯まない、小心者じゃない人が向いています。
まとめ
いかがでしたか? 今回は精神科医に向いている人の特徴を紹介しました。精神科で働くには強靭なメンタルが必要です。さらに、優しく聞き上手で潔癖症じゃない人なら、精神科はぴったりな職場でしょう。一般科では味わえない摩訶不思議な体験ができるのが精神科の魅力です。ぜひ一度精神科で医師として働くことを検討してみてくださいね。