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病気が見つかっても「治療しない」のもひとつの選択肢

病気が見つかっても「治療しない」のもひとつの選択肢

病気が見つかっても「治療しない」のもひとつの選択肢

私は、総合病院の外科病棟で働く看護師です。日々、患者さんを診ていくなかでわかったことがたくさんあります。そのひとつが、入院中、多くの患者さんは病気や治療などに対するストレスを抱えているということです。また、患者さんによっては、亡くなるときまでそのストレスと向き合い続けなければならない場合があります。そこで今回は、その人らしい最期の迎え方について、私の経験も交えながら紹介していきます。今回の記事が、患者さんやその家族への対応の参考になればと思います。

患者さんにとって治療とは

体調不良が治らなければ、ほとんどの人は、病院を受診して治療を受けるでしょう。病院では、たくさんの患者さんが通院や入院をして病気を治そうと頑張っています。病気が見つかった患者さん、治療を受けている患者さんには、さまざまな不安や葛藤があります。

治療に対する不安

まず、病気が見つかった際には、患者さんは大きなショックを受けます。患者さんの中には、失望し、否認して受容することが難しくなる人もいます。気持ちの浮き沈みも激しくなり、不安から眠ることや日常生活を送ることが難しくなる程のショックを受ける患者さんもいます。

病気であることを受容すると、治療を勧められ、治療に専念していくことになりますが、ここでも、治療に対する不安が出てきます。どのような治療でもリスクや副作用があるため、事前に医師から説明を受けますが、中には、説明を受けたことで余計に不安が大きくなる患者さんもいます。たくさんの情報を聞いたことで混乱し、医師の話を十分に理解できていなかったと話す患者さんも多いため、説明の際には注意が必要だと思います。

そのため、インフォームド・コンセントの際の患者さんの反応や理解度を確認し、看護師がフォローしていくことは大切です。治療の説明のあとに、看護師が確認することで患者さんの意思を確認することが治療方針に影響することもあるため、重要な役割になります。

今後への期待

治療を受けることを決めた患者さんは、期待しています。何を期待しているかというと、病気が治って、以前のような日常生活を送れるようになることです。治療を受け入れるまではさまざまな不安や葛藤がありますが、病気を受容できた際には、客観的な立場で自分自身と向き合うことができるようになり、積極的に治療について考えることができるようになります。

病気を受容できるようになるまでの時間や気持ちは、患者さんによって差があります。そのため、じっくりと時間をかけて病気と向き合えることができるよう、フォローしていく体制を整えることも必要であると思います。

精神的に不安定になった際には、専門家を紹介して心のケアができるようにサポートしていくことも必要です。患者さんが前向きに治療を受けることができるよう、医療従事者がサポートして一緒に前を向いていくことが大切になります。

治療に対するストレス

病気を受容し、実際に治療を受けることになった患者さんは、治療に向き合ってからも、心身ともにストレスを感じることがあります。例えば、抗がん剤投与の治療が開始されると、嘔気や倦怠感、脱毛などの副作用に悩まされ、人によっては耐えられずに治療を中止してしまいます。

このような場合は、制吐剤を使用したり話を傾聴したりして不安緩和のケアをしますが、患者さんのストレスは計り知れないものであることが多いです。強いストレスや精神的な負担があると、治療の効果が十分に発揮されないこともあるので注意が必要です。

患者さんが何に対してストレスを感じているのか、話を傾聴して患者さんに寄り添い、不安を取り除きながら前向きに治療を受けられるようにサポートすることが大切です。

その人らしい最期の迎え方

実際の私の経験を通して、治療方針について考えさせられるものがあったため、紹介したいと思います。その患者さんは、70代前半の女性で、膵がんのため、入院されていました。当時、その患者さんは旦那さんと2人暮らしをしていました。

膵がんは無症状のうちに病気が進行するケースが多く、症状が出て見つかったときには、もう手遅れになっていることも多いがんの1つです。この患者さんの場合には、初期段階で見つかったため手術をすることも可能であり、消化器内科から私の働く外科にコンサルテーションがかかり、外科に入院となりました。

入院当初、医師から手術に対する説明があったのですが、患者さん自身も旦那さんも何か言いたそうな不安そうな表情で話を聞いていました。医師からは、「手術ができる段階で見つかって、不幸中の幸いだったと思います。手術、頑張りましょうね」という励ましのことばがあり、話を終えました。

患者さんの表情が気になった私は、インフォームド・コンセントの後に、詳しく話を聞こうと思い、患者さんとその家族を含めて話を聞くことにしました。「先生からの説明を聞いている際に、何か言いたそうな表情だったのが気になったのですが、大丈夫ですか。何か気がかりなことがあれば、遠慮なく話してください」と声をかけると、「実は…」と重い口を開き、話し始めてくれました。

話を聞くと、患者さんと旦那さんは、2人で暮らしており、昔からもし自分たちに何かあった際には、治療はせずに「海の見える自宅でゆっくりと最期を迎えたい」と話し合っていたそうです。今はコロナウイルス流行中のため、家族は面会禁止であり、入院すると、退院までの間、面会もできず、それも不安であると話しました。不安を抱えながらも医師の勧めもあり、入院日を迎えてしまったと話していました。

実際に手術を受けるとなるとリスクもあり、笑顔で手術室に向かった患者さんが還らぬ人となってしまった事例も私自身、経験しており、術後の合併症からの回復を経て家族が面会できるようになった際には、もう意識がない状態であったという患者さんも中にはいました。

そのような患者さんもいたため、確かに今回の患者さんの言うことにも納得でき、このまま進めていってもいいのか、私自身も迷いました。医師からすれば、早期に発見されたため、手術をして病巣を取り除くことができれば根治も可能であるので、手術を強く勧めたいといいう気持ちも十分に理解できます。

しかし、患者さんの気持ちが一番重要であると感じ、医師にそのことを伝えました。その結果、再度患者さんにインフォームド・コンセントをおこない、患者さんの意思を尊重して手術を受けないこととなり、そのまま患者さんは退院されました。退院時のすっきりしたような表情は今でも覚えています。患者さんは最後に、「私は、覚悟はできているのであとは主人とゆっくり丁寧な生活を送ります」と話し、笑顔で退院されていきました。

治療をして病気を治すことだけが正しい選択ではなく、患者さんの思いに寄り添った結果、治療をしないことがその人にとって正しい選択であることを学んだ事例でした。医療従事者であれば、病気を治すことに目が行きがちですが、患者さんやその家族の意思をしっかりと確認して、その人らしい最期が迎えられるようにサポートすることも医療従事者の責任の1つであると感じました。

理想の医療現場

私の考える理想の医療現場とは、患者さんの思いに寄り添い、患者さんにとって何が一番良い方法なのか考えることができる病院です。医療従事者的には、病気を根治できる方法を見つけ、治療していくことが大切ですが、今回の事例のように、それが果たして患者さんにとってはどうなのか、考えていく姿勢が常に必要であると思います。そのためには、普段から患者さんとコミュニケーションを取って患者さんとの信頼関係を築き、患者さんの小さな変化にも気づいてあげられることが大切だと思います。患者さんとの治療方針の決め方について、看護師目線で見たサポートのポイントを以下にまとめます。

  • 医師の治療方針に対して患者が納得しているのか確認する
  • 医師の話について理解が不十分な場合には、補足説明を十分におこなう。
  • 患者さんが希望する治療や今後についての意思を確認する

今回の記事が患者への対応について考えるきっかけとなり、今後のより良い医療の提供に繋がればと思います。

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