患者さんの最期の姿
私は総合病院の外科病棟で働く看護師です。今回は、手術を受ける患者さんの心理について、実際の私の体験を交えながら紹介していきます。今回の記事が患者や患者の家族への対応の参考になればと思います。
手術前の患者さんの心理
手術を受ける前の患者さんは、多くの不安を抱えています。医療スタッフに対しては、「あとは先生に全てお任せします」と明るい表情で話す患者さんも、内心は、「手術がうまくいくのか」「術後の痛みに耐えられるのか」「術中や術後に合併症が起こったらどうしよう」などの不安や恐怖を抱えていることがほとんどです。
この他、手術の内容によっては今後の社会復帰に影響を及ぼすこともあるので、退院後の生活に対する不安もあります。そのため、医療スタッフは患者の抱える不安を少しでも緩和できるように話を傾聴したり、今後の生活について一緒に考えて、必要な社会サポートを提案したり、タッチングなどで不安を解消していく必要があります。
術前のインフォームド・コンセント
手術を受ける患者さんとその家族は、医師から手術の内容や合併症、麻酔の影響などについてのインフォームド・コンセントを受けます。このインフォームド・コンセントによって、患者さんや家族は、病気や手術内容、術後の合併症などについて十分に情報を得て、理解した上で手術を受けます。患者さんの中には、医師と話すことや手術自体に緊張していて、話の内容が十分に理解できていない場合もあるため、医師からの話が終わったあと、看護師から再度確認して、不明だった点については補足説明することもあります。
この術前のインフォームド・コンセントの内容の中には、手術を受けた際のリスクや副作用など、患者さんにとっては不安や恐怖を抱いてしまう内容も含まれています。そのため、インフォームド・コンセント後の患者さんへの精神的なサポートも大切になります。家族においても同様で、手術が終わるまでは不安が強いため、術前の不安や疑問がないか知り、コミュニケーションを取り、少しでも疑問や不安が解消された形で手術を迎えることが重要になります。
手術を受けた患者の事例
続いては、心臓血管外科で入院中に開心術を受けた患者さんの実際の事例について紹介します。この患者さんを仮にAさんとします。Aさんは、60歳代男性で気さくな性格。私たち看護師ともよくコミュニケーションを取り、入院前は健康のためにジムに通い体を鍛えていたと話していました。元気になったらまたジムに通うことを目標にしていることも教えてくれました。
手術前日は、「緊張するけど、あとはもう先生に任せるしかない」と話し、腹をくくった様子で手術当日を迎えました。手術室までは私が案内。Aさんは、「頑張ってくるから待っていてね」と、笑顔で手を振りました。「いってらっしゃい」と、こちらも笑顔で手を振り、見送りました。
そのときは、Aさんが元気に病棟に戻ってきてくれると信じ、見送りました。しかし、それがAさんを見た最後となってしまったのでした。Aさんは手術中に合併症を起こし、結局、帰らぬ人となってしまいました。病棟の看護師もそのことを知ってショックを受けました。
手術のリスクを説明されていたため、家族も理解はしてくれましたが、ショックは大きなものです。どのような手術にもリスクはあり、命を落としてしまう患者さんも中にはいます。そのことは知ってはいたものの、実際に直面すると何とも言えない気持ちになり、看護師として、術前の関わりでもっと何かできたことがあったのではないか、とさまざまなことを考えました。この経験から、患者さんと接するときは、悔いが残らないようにそのときそのときの対応を大切にしていきたいな、と思うようになりました。
理想の医療現場
私の考える理想の医療現場とは、患者さんが不安なく治療を受けることができる病院です。入院している患者さんは、多かれ少なかれ不安を抱えています。そのため、不安を少しでも緩和できる関わりが大切になると思います。
手術を受ける患者さんへのサポートのポイントを以下にまとめます。
- 手術に対する不安や疑問が緩和された状態で手術を受けられるようにサポートする
- 患者さんへのその時その時でのコミュニケーションや看護を大切にする
- 患者さんの家族も含めた精神的なサポートをしていく
今回の記事が、患者や患者への対応について考えるきっかけとなり、今後のより良い医療に繋がればと思います。