医師の言うことしか聞かなくて困った患者さん
入院中の患者さんにはいろんな方がいるので、それぞれにいろんな考え方を持っていますよね。お年寄りの患者さんも多く、彼らの人生観や体験談を聞くのはとても勉強になると常々感じています。しかし、中には看護師からしてみると困ったこだわりを持っている患者さんもいます。
先生がいる時はニコニコ、先生がいなくなると……
夜間に緊急入院してきた、既往に認知症のあるおじいさん、Aさんは、医師とのやり取りでは、ニコニコしながら笑顔で相槌を打っていました。しかし、先生が病室を出ていくと態度が一変してしまいます。看護師の声かけを無視したり、点滴を拒否したり、帰りたいと暴れたりと、先生と話していた姿からは想像できないくらいの変わりようようです。仕舞いには「先生のいうことしか聞かん、女のいうことなんか聞けるか」と言う始末。どんなに声をかけてもダメでした。
困り果てた看護師たちが思いついた対応は
このままでは必要なケアが出来ず困ってしまいます。しかし、毎回忙しくしている主治医を呼びだすわけにもいきません。そこで考え付いた方法が、先生っぽい人を連れてくることでした。
Aさんは男性が通るたびに「ちょっと先生、こっち来て」と誰彼構わず声をかけていました。そこで、病棟の男性看護師に協力してもらってAさんの対応をしてもらうと、女性看護師のときよりもすんなりとケアを受けてくれました。さらには、通りすがりのMEさんも医師のフリを手伝ってくれて本当に助かりました。もちろん、自分たちから「自分が医師だ」というのは嘘になってしまうので、それっぽく傾聴したり、ケアを受けてくれるようにお願いしたりする程度のことです。それでも、Aさんは安心したのか表情が柔和になりました。
主治医は全く知らなかった
Aさんの主治医はというと、Aさんのこの変わりようについてこちらから伝えるまで全く気付いていないようでした。このことを伝えると主治医の先生は「いつも素直に話を聞いてくれる良い方なのに……」と言っていたので、Aさんの方が一枚上手だったのかもしれません。何はともあれ、医師には見せない裏の顔を持つ患者さんもいるということを、この体験談を通して知ってもらえたのではないかと思います。