研修指定病院えらび「市中病院と大学病院」
医学部6年間が終わると、2年間の研修期間に入ります。この2年間の研修先を、医学生は自分で選択します。研修医を受ける病院のことを「研修指定病院」と呼びます。昔と違い、今は多くの市中病院が研修指定病院として受けています。今回は研修指定病院の選ぶ上で、市中病院と大学病院のそれぞれの利点について、まとめてみました。
市中病院の利点
一般的な医者の働き方が学べる
市中病院では、大学病院とは違い、医者の働き方の一番ありふれた働き方を学べます。とくに、自分の専攻科を選び決定する上で、大学病院の医者の働き方よりも、市中病院での働き方を参考にしたほうが後々の後悔が少なくすむと考えます。なぜならば、多くの医者は勤務医として、どこかの市中病院で勤務を続けることが大半だからです。
Common disease(一般的な病気)が学べる
Common disease とは、市中病院や開業医で診察する上で多く出会う病態や病気のことです。例えば、高齢の患者さんであれば誤嚥性肺炎や尿路感染があがります。また、中年や若年の患者さんであれば、尿路結石や一般外傷(手足のケガ)といったものがあがります。
専攻科ごとでも、それぞれ特有のcommon diseaseがあります。循環器内科であれば、心不全や心筋梗塞の治療が学べます。神経内科や脳外科であれば、脳梗塞や脳出血があがります。一般外科でも、虫垂炎や胆嚢炎の手術をたびたびおこなうのを目にすることができるでしょう。
市中病院での診療のスピード感が学べる
医学生の6年間は大学病院で学びます。病院実習を1年?1年半ほどはおこないますが、そのほとんどは大学病院での研修となります。なので、大学病院で研修医をすると、自分の専攻科えらびを、大学病院というかなり特殊な環境の中で決定することになります。
その際の選び方のひとつのポイントが、診察のスピード感について考えることです。大学病院と市中病院では、診療のスピード感が異なります。
大学病院の医師も忙しくはありますが、多くの時間を学術活動にあてます。そのため、診療に費やす時間は少ない印象があるでしょう。また、他の市中病院で診断や治療に難渋した患者さんも紹介されてきます。そのため、1人に対して、じっくり治療をすることも多く経験します。
一方で、市中病院は入院の適応がある患者さんが、次から次へと受診、紹介されてきます。総じて、一人ひとりにあてる時間そのものが短くなります。また、次から次へとこなしていかないと、すぐに仕事がパンクしてしまいます。診療に求められるスピード感も、必然的に市中病院は速く感じられるでしょう。
自分で学んでいく姿勢が身につく
市中病院は、大学病院とくらべて医者の数が相対的に少ないです。そのため、上級医から丁寧に指導をしてもらうことが難しいでしょう。ときにはかまってもらえず、放置されることもあるでしょう。
市中病院で研修する際の心がけとして、大学病院で研修する以上に自分自身で学んでいく姿勢が大切になります。たとえば、救急外来で積極的に初診したり、入院患者さんの受け持ちを積極的に上級医に相談していったりといったことが望まれます。大学病院であれば、学生指導や研修医の指導も仕事のうちと考えてくれる上級医も多いですが、市中病院はそうではありません。日常業務も忙しいため、「この研修医は役立つ!」と思ってもらわないと、仕事を与えてもらったり、指導をしてもらったりすることが難しいでしょう。
そもそも、医学生の間は、どの大学であれ丁寧に指導をうけられることが多いです。他の大学や学部よりも、医学部のカリュキュラムはしっかりとした指導体制が整っています。これが研修医となると、他職種の社会人一年目と同様に、仕事は自分で覚えることが基本となります。これは、市中病院であれ、大学病院であれ変わりはありません。
雑用が少ない
市中病院では、医者の数が少ないかわりに、看護師等まわりのスタッフが充実しています。研修医の雑用の代表格は採血です。どの病院も7時くらいに入院患者さんの採血回りをします。大学病院であれば、研修医が主に採血します(ただ、最近は大学病院も研修医数が少ないため、採血する機会が減っていると言われています)。その他にも、入院患者さんのサマリー作成や病名登録といった事務仕事の多くも、大学病院では研修医の仕事になります。こういった業務が多くなると、医者本来の仕事が学べなくなってしまいます。
市中病院では、こういった業務を看護師や医療事務の方々がおこなってくれるシステムになっています。そのため、患者さんと向き合う時間が多くとれます。研修医のうちから、医者の仕事に集中できるのは良いことと考えられます。
手術の執刀医となりやすい
もしあなたが外科系を考えているならば、市中病院での臨床研究をオススメします。大学病院であると、医者の数も多いので研修医が執刀医となることは難しいです。また、大学病院は、他の病院から紹介されたような難しい手術をすることも多いので、若手が手術することも少ないです。一方で、市中病院であれば、患者さんの数が多く医者の数が少ないので、実際に執刀医として手術する機会も多くあります。
手術の醍醐味や面白さは、実際に手を動かさないとわかりません。地方の市中病院であれば、100例以上執刀することも十分可能です。
給与が高い
都内の有名病院でなければ、一般的に大学病院よりも市中病院で勤務をするほうが高い給料をもらえます。筆者の地域(都心郊外)であると、大学病院の年収は400万円です。一方で、市中病院の年収は700~800万円ほどになります。月の手取りにすると、大学病院は22~25万円程度で、市中病院は35~45万円程度になります。市中病院での研修は給与が高いのも魅力です。
大学病院の利点
次に、大学病院で研修医をする利点について、述べていきます。
学問に近い領域を学べる
学会発表や論文作成など、医療より医学に近い分野を身近で学べます。大学で勤務している医師の多くは、何かしらの学術活動をしています。なので、大学病院で研修をするならば、上級医にどんな研究をしているか質問をするのがよいでしょう。そこから、研究の内容や手法について指導してくれる可能性が広がります。
研修医のうちから、学会発表や論文作成の機会に恵まれることもあります。基礎研究に興味がある場合も、大学病院であれば、同じ敷地内に研究室があることが多く、基礎研究に触れる機会も多くあります。
丁寧な指導を受けられる
大学病院は、市中病院にくらべて指導医が多くいます。指導医だけではなく、医者3~5年目の医師も多くいるため、手厚い指導が受けられます。一つの科内に、15~20人前後の医者が在籍していることも多くあります。研修医の指導は手がかかります。そのため、教え手の多い病院で研修するほうが、より研修医指導に割かれる時間も多いと考えられます。
雑用が多く、学びも多い
大学病院で働くと、採血やサマリー作成等のいわゆる雑用を多く任されます。ただ一方で、研修医のうちにしか経験できない学びが雑用の中にはあります。採血や点滴のルートキープの手技は、いざというときに医者は看護師から頼まれたりすることを考えても、磨いておくに越したことはありません。その練習は、研修医のときくらいしか集中してできません。また、受け持ち患者さんのサマリー作成やカンファレンスでのプレゼンテーションを通して、体系立てて患者さんを把握する力がつきます。
安全に臨床実習ができる
大学病院は医者の数も多いため、安全に研修が可能です。また、医療安全部門もしっかりしているため、医療訴訟問題に直面することは少ないです。一つひとつの手技も、時間がかかっても急かされることはなく、時間をかけて安全におこなえます。
人脈づくりがしやすい
地方であれば特に、大学病院はもっとも医者があつまる場所です。地元の大学以外で医学部を卒業して地元に戻ってくる場合は、大学病院が勧められます。なぜならば、一番多くの医師との人脈が作れるからです。別の科として一緒に仕事をするよりも、研修医として実際に一緒に働いた経験や交流は、一生の宝になります。医者の世界は狭いです。なので、研修医期間が終わっても、またどこかで一緒に働くことは多いです。