【クリニックの顔】医療事務の苦悩
クリニックでは、医師、看護師、医療事務をはじめとするスタッフがそれぞれの役割を担っています。そのなかでも、一番重要な存在である医師。医師がいなければ、クリニックは始まりません。患者さんの心身の健康に向き合い、治療や投薬をする、必要不可欠な存在です。そして、医師のサポートを担うのが看護師。患者さんへ適切な治療をする上で、医師にとって看護師とは心強い存在であるかと思います。
医療事務として働いている私にとっても、医師と看護師は偉大な存在です。
資格がなくても医療の現場に携わることのできる医療事務は、医師や看護師よりは替えが利くのかもしれません。それでも医師や看護師と同じように、患者さんへ寄り添う気持ちは持っていると自負します。直接的に患者さんの健康に関わることはできないですが、癒しやサービスを提供できる存在として務めています。
そんな「クリニックの顔」である、医療事務の仕事にやりがいを持ちつつも、悩みやストレスはなきにしもあらず。
医療事務の仕事は受付だけではなく、専門的な事務所理や書類管理、電話対応や会計などさまざま。混雑時は、二刀流で業務をこなすというアクロバティックな技なしでは追いつかないことも多いです。しかも、イレギュラーなシチュエーションなんてよくあることで、何度頭を抱えてきたのかわかりません。
今回は日々の業務で、肉体的にも精神的にも感じた、数ある苦悩をご紹介します。一医療事務院としての考えになりますが、こんな苦悩があるんだと参考にしていただければと思います。
日常業務の幅が広い
冒頭でも説明しましたが、医療事務の業務はなんといっても幅が広いです。私は一般企業での事務の経験もあるのですが、そのときの業務とは比にならないほどの内容です。
大まかな業務内容として
- 患者対応
- 受付処理
- 問診
- カルテ作成
- お会計
- 電話対応
- レセプト処理
- 予約管理
- スケジュール管理
- 備品の受発注
などがあります。
私が医療事務の仕事を客観的に見ていたときは、受付対応する以外は座っている、のほほんとしたイメージでした。しかし、実際にはハードなことも多く、ときにイレギュラーなシチュエーションに通常業務の手が止まることもあります。
イレギュラーなシチュエーション
お耳が遠い高齢者
お耳が遠く、付き添いなしで来院される高齢者。問診のやり取りでは、「アレルギーはありますか?」に対して「玉ねぎだって?」など、時間がかかることもしばしば。お会計時では、自分の名前を聞き間違えて受付でお会計しようとすることもあります。間違ったままお会計というミスにもつながるため、細心の注意を払わなければなりません。
キラキラネーム
最近では、いわゆるキラキラネームの方が多く、カルテ作成の際にパソコン入力ではストレートに変換されないことがあります。複雑な漢字は、IMEパッでて手書き検索します。愛情を込めてつけられたお名前とはわかりつつも、早くカルテを作成しなければと焦る思いでマウスにて漢字を作成しています。
読み取れない保険証番号
財布で擦れるのか、大事な保険証の番号が消えている方がいます。患者さんには保険証の再発行の手続きをお願いすると同時に、その日は発行先などに連絡をして番号を確認することもあります。お金と同様の価値を持つ保険証は、大切に扱ってほしいと思う次第です。
月末になって労災へ変更
数日保険証を使って受診していた患者さんが、月末になった頃に労災へ変更してほしいと申告されることがあります。保険変更は手間がかかるんですよ!なんて言葉は、絶対に飲み込みます。
クレームの対応
待ち時間が長いなどの患者さんのクレームには、受付が対応することがほとんどです。「もう2時間も待ってるんだけど」「薬だけでいいから」と言われることは日常的によくあることです。説明しても聞き入れていただけず、強い口調で言われることもあります。
落ち着いている状態のときはまだいいのですが、混雑時などでは、どうしても通常業務が疎かになってしまいます。月末・月初になるとレセプトなどの請求処理も重なり、ノンストップな作業に水分を摂ることも忘れてしまうほどです。すべてが医療事務の業務であることは理解していますが、正確・丁寧・迅速を心がけている身として、イレギュラーなシチュエーションに時間をとられてしまうことがあります。
専門的分野について覚えることが多い
医療事務は資格がなくても始められますが、専門的な知識は必須になります。さまざまな業務のなかで、覚えらければいけないことは多い印象です。
- 保険証の種類やしくみ
- 保険制度のルール
- カルテ作成、診療請求
勤務してまもない頃は、専門用語が飛び交うなかで翻弄されるばかりでした。
計10年、医療事務として働いていますが、どれだけ経験を積んでも、都度変わる診療報酬改定の把握など新しいことは増え続け、今も勉強を重ねる日々です。算定基準などを調べる際に、難しい言い回しや曖昧な言い回しもあるため、解釈することが困難な場合もあります。判断を誤り、返戻や減点の通知がくると、自分の未熟さに肩を落とす次第です。
患者さんからの当たりが強い
医師や看護師と比べると医療事務は立場が弱いからか、全員ではないですが、患者さんに強く言われやすい傾向にあります。受付では高圧的な態度だった患者さんが、医師の前では低姿勢だったなんてことは、よくある話だったりします。
有効期限切れの保険証を持参された患者さん
「保険証の確認できないため、今回は全額負担していただき、新しい保険証を持参した際に差額分を返金します」とお伝えしたのですが、「前の保険証で診察すればいい」「このクリニックは融通が効かない」と聞き入れてもらえず、逆に反感を持たれました。
受付時間を過ぎて来院された患者さん
「受付時間を過ぎているため、診療時間内にお越しください」とお断りさせていただいたのですが、「せっかくここまで足を運んだのに、帰らせるなんてあんまりだ」と何を言っても攻撃的な言葉を返されました。
こういったケースは稀ですが、こちらの対応が正当であることをお伝えしても、逆鱗に触れさせてしまうこともあるため、患者さんへの言葉選びは慎重におこなっています。理不尽なご指摘に、毅然とした態度で冷静な対応をするように鍛えられましたが、今でもモヤモヤしてしまうことはあります。
コミュニケーションが難しい
患者さんの来院時と帰宅時は、受付を担う医療事務が接することがほとんどです。クリニックの顔であることを心がけていますが、コミュニケーションの難しさを感じることもあります。コミュニケーション能力を高めることは、医療事務として働く私にとって一番の課題でもあります。
患者さんとのコミュニケーション
患者さんの言いたいことや状況を適切に判断し、カルテを作成します。緊急を要すれば、早めの対応を仰ぐことも必要になります。高齢の方など意思の疎通がうまく取れず、受付で言ったことと診察室で言っていることが、異なってしまう場合がありました。このような状況は診察時間のロスにつながるため、詳しく症状をお聞きして、論点を理解するよう心がけています。
しかし患者さんによっては、詳しく話してくれない方や、症状のことは全部医師に話すからと言って、何ひとつ情報をくれない方もいるのです。そんな時は、仕方がないとは言え、信頼されていないことに落ち込むこともあります。
スタッフとのコミュニケーション
患者さんだけではなく、医師や看護師、事務同士でのコミュニケーションにも重きを置いています。
以前、働いていたクリニックでは、事務長が厳しい方で質疑に応答してもらえないことがほとんどでした。そのため必要な報連相さえも伝えにくい雰囲気であり、業務に支障をきたすことも何度かありました。
スタッフ同士の雰囲気はフラットに保ち、意見交換などをし、チームワークを強化することで、より良いクリニックを築くことにつながると考えます。
責任が重い
患者さんの健康に直接関わることはできませんが、間接的にでも関わる以上は、少しのミスでも許されません。そんななかで、ヒヤリ・ハットする場面には少なからず経験しました。
違う患者さんの問診を入力
患者さんが記載した問診を入力する際に、誤って別の患者さんのカルテに入力してしまいました。患者さんが診察室に入ってから、辻褄が合わないことに気づいたことで発覚したのです。幸いにも、検査や処置をする前に気づけたのですが、患者さんに迷惑をかけることになりました。
予防接種の間違い
これは小児科で勤務している知人の体験になりますが、予定していた予防接種とは違う予防接種の問診票を渡してしまい、あと少しで打ってしまうところだったようです。大きい事故にはつながりませんでしたが、知人は顔面蒼白になったとのこと。こういった話を聞くだけで、明日は我が身と思わされます。
医療事務が大きい責任を問われる業務は少ないですが、無縁なわけではありません。問診の入力ミスや、問診票の渡し間違い、保険証の返し忘れ、個人情報の流出など、気を引き締めなければいけない場面は多いです。
緊張感を持って業務に専念することは当然なのですが、責任の重さに耐えられなくなることがあるのも事実です。
最後に
医療事務は覚えることも多く、ときに大変なことや責任の重さに耐えられなくなることもあります。それでも医療事務だからこそ、携われる業務や知識に触れることができます。患者さんに「ありがとう」と言ってもらえるときには、人の役に立てたと感じ、心が救われる思いです。
そして、医師や看護師に頼りにされることも、やりがいや自信につながります。悩みながらも、医療事務としての立場が、クリニックにおいて重要なキーパーソンとなれるよう、前進していきたいと思う日々です。