医療事務の教育担当「恐怖のお局さま」
どこの職場にもいる「お局さま」。みなさんの職場の「お局さま」はどのような方でしょうか? 重鎮であることを感じさせない働き者?はたまたずる賢いサボりのプロ?
わたしが初めて「お局さま」に出逢った場所は、新卒で医療事務として入社した個人経営の中型規模の医院でした。その病院で、社会の右も左も分かっていない新人の教育を担当していたのが、開業当初からいるお局さまでした。第一印象は「容姿端麗で笑顔がすてきな優しそうな方」でしたが、指導していただくうちに本性が現れはじめ……?
今回は、まだ「お局」という言葉の意味も良く分かっていなかった新人のころのエピソードをお伝えします。
院長の奥さんかと錯覚する仕事ぶり
わたしが勤めていた医院は、初出勤の前のオリエンテーションなどは一切なし。初日に院内のスタッフへご挨拶を済ませた後、器具や電子機器の説明を受け、受付での一日の流れを見学して終了という流れでした。そこで初めて院長以外のスタッフたちにお会いしたのですが、「新人教育を担当しているミカ(注:もちろん仮名)です~よろしくね」とお局さまの自己紹介。まさか職場の上司に、一人称が自分の名前の人が居るなんて思ってもいなかったので驚きました。そしてスタッフはもちろん、院長、患者さん、医療材料業者さんにも堂々のタメ口です。親しみを込めているのか、長く勤めすぎて家のようになっているのか、とにかくラフに働いており、はじめは院長の奥さんだと思っていました。
そんなお局さまの主な仕事内容は、スタッフの仕事ぶりを観察し、かなり厳しめに評価すること。そして患者さんと世間話をすること、すきま時間に院長の話し相手になること。かなりシンプルです。たまに看護師らしい仕事をしてくれることもありましたが、作業効率良くという考えはなく、目についたものの中から好きな仕事を選んでやっていくスタイルです。
意地悪はお局の必須要素?
基本的に新しいことを嫌っていたので、ずっと昔のやり方を貫いていたお局さま。当然、新しく導入した機材の操作方法など詳しく把握しておらず、操作方法を質問しても「それ前も教えたはず」「一回メモ確認してみて」と答えてくれませんでした。慌ててメモを確認するも、どこにもそれらしきメモは見当たりません。当然です、一度も説明を受けたことがないのです。当時は新人だからこのような待遇なのかと思い込んでいましたが、そうではないことだんだんわかってきました。
また、業務中、明らかに自己判断ではなく上司に指示を仰いだほうがいいような内容の質問をしても、「なんでそう思ったの?」と質問返しです。もちろん何でもすぐに質問して楽に解決するクセがついてしまうのも良くないですが、時と場合にもよります。わからないことだらけの新人の質問に、なぜそんな意地悪をしたくなるのでしょうか。聞き返されるのが怖く、だんだんと質問するのが億劫になり、気になることが出来てから質問に行くまでに、かなりのタイムラグが生じてしまっていました。お局は意地悪をしないといけないという決まりでもあるのでしょうか。
人に厳しく、自分に甘く
一度わたしの不手際で患者さんに余計な手間を取らせてしまったことがありました。そのときのわたしの対応、患者さんの表情や発言など、当事者しか知らないはずの内容までこと細かく口にしてきて、どこかで録音されていたのではないかと不安になったことがありました。
人の不幸は蜜の味と言いますが、とにかく人のミスが好きなお局さまは、わたしのミスを発見すると嬉しそうに「院内ミーティング案件だ」と言って上に報告します。もちろんこちらも、できる限り教わった通りやれるよう、細心の注意を払って業務に当たっていますが、そもそもいつでも同じ流れで業務を進められるはずがありません。患者さんごとに症状も主訴も違うのに、同じように対応していてはロボットと同じです。それでも、同じ対応ができないことをミスだと判断されると晒しものにされてしまうので、お局さまにばれないよう、すばやく処理する技術が身に付きました。
緊急事態も頼りにならない
三か月の研修期間が終わり、受付業務を一人で任されるようになって一週間ほどたった日のことです。一本の電話が入り、「大したことはないが、念のため診てもらいたいところがある。明日の10時に予約したい」と言われました。
しかし、ちょうど翌日のその時間は別の患者さんの検査予約が入っており、来院されても待たせてしまうことが明らかでした。そこで、お局さまが決めたマニュアル通り、待ち時間が発生してしまうことを伝え、同じ日の午後の時間を案内しました。すると患者さんが、「明日の10時じゃないと行けないのに、具合の悪い患者を後回しにするのか!」と大激怒。近くにいるスタッフに助けを求めればよかったのですが、お局さまにバレると晒しものにされてしまうことがイヤで言い出せず、一人で対応しました。しかし、「院長に電話を代われ!」とまで言われ、諦めて怒られようと覚悟。電話を一旦保留にした瞬間、お局さまが嬉しそうに登場いしました。すべてすぐ近くから見ていたようで、「この近くに住んでいるあの患者さんでしょ?」と、なんと患者さんまで特定していました。
実はこの患者さん、毎回このような電話をかけてくることから院内では有名だそうで、知らないのは新人のわたしだけでした。カルテの伝達事項にそのような注意メモはなかったのですが、「この患者さんはいつもこうなのよ」 と一言。近くで見ていて状況を察知していたにも関わらず、なぜ助けてくれなかったのかと思います。
思い通りに動く新人か見極め
わたしと同じく新卒で採用された同期が一人いました。年齢も同じだったため話も合い、すぐに打ち解けることができた、院内で唯一の話相手です。しかし、この同期が少しおっちょこちょいで、小さなミスを繰り返してばかり。また、話し出す前に「あっ」「えっ」と言うのが特徴でした。お局さまはそんな同期がお気に召さなかったようで、二週間ほど経ったころから辞めさせるように仕掛けはじめました。
わたしたち新人にとっては毎日が新しいことの連続で、一つひとつ確認して作業を進めていたのですが、早く辞めてほしいお局さまは、確認を待たないどころか、仕事をきちんと教えることさえしません。同期に対して、「目で見て覚えて」というスタイルを貫いていたため、当然ミスは増加。しかも同期は、ミスするたびにお局さまから机の下で足をぎゅっと踏まれていたのです。支給されたナースシューズが白色だったので踏まれるたびに汚れてしまい、お昼休みに拭いていた同期の表情に、何度もいたたまれない気持ちになりました。
そんなお局さまの唯一見習いたいところ
スタッフには酷い仕打ちをしてばかりのお局さまでしたが、患者さんからの評価はピカ一でした。特に年配の方や小さいお子さんのいるお母さん世代からの支持が厚かったです。患者さんの気持ちを汲み取り、患者さんの求める寄り添い方ができる能力には長けていたように思います。陰で仲間の足を踏みつける人が、杖をついた年配の方が見えるやいなや席を立ち手伝いに向かいます。そうした行動が患者さんに好評だったことから、院長も大事にして居たのかもしれません。