外国人患者さんへの対応の難しさ
私は、総合病院の外科病棟で働く看護師です。私の病院では、年に数回、外国人の患者さんが入院してくることがあります。外国人の患者さんの対応については、私を含め、対応の難しさを感じる医療従事者も多いと思います。そこで今回は、外国人患者さんの対応の難しさについて、実際の周りの医療スタッフの声や私の体験をもとに紹介していきます。今回の記事が、より良い病院運営に繋がればと思います。
外国人患者の対応の難しさ
国や個人の性格にもよりますが、外国人の多くは、「しっかりと自分の意見を主張することが大切である」といった教育を受けてきた人が多いとされています。日本人の義務教育は、割と受け身であることが多く、外国人に比べると日本人は、自己主張もあまりしないタイプの人が多いです。
具体例として、例えば、治療方針を患者さんと話し合う際に、日本人の多くの患者さんは、「先生にお任せします」といった考えを持っています。実際に働いていても、インフォームド・コンセントなどで、このような言葉を聞くことは多いです。逆に外国人の患者さんは、どのように治療したいのか、どうしてほしいのか、患者さん自身が明確な意思を持っていることが多く、患者さんの希望する方針になることが多いようです。
どちらが良い、悪いなどは全くなく、育った環境や受けてきた教育、文化が異なれば、理解をすることが難しい場面も時にはある、ということです。
また、熱源不明の発熱をしている外国人患者さんなどが入院してきた場合、「日本ではワクチン接種をしていないような未知のウイルスや細菌であったらどうしよう」などと医療スタッフが不安になる場合もあります。
今はコロナウイルスが猛威をふるっていますが、医療従事者は感染症に感染するリスクも高い仕事のため、医療スタッフ側が不安に感じてしまうケースも多いです。これらのことから、外国人患者さんとの対応に戸惑い、難しさを感じるような場面も時にはあります。
言葉の壁
外国人の患者さんが入院したときに一番対応が難しいと感じる部分は、やはり「言葉の壁」だという意見が、私の周りでも多くありました。簡単な言葉であれば、ジェスチャーやカタコトな英語でも伝わるのですが、治療方針や安静の指示、絶飲食や薬や点滴の効能、注意点などに関する詳しいことを伝えることは、とても難しいです。
このような場合には、回診時に医師に英語で伝えてもらったり、紙に英語で書いてもらったりします。こういったときには、「さすが、先生! 頼りになる~!」と感じることがあります。医者になるだけあって、頭が良いことを実感する瞬間です(笑)
周りのスタッフの中には、言葉が伝わらなくても、熱意で一生懸命伝え、コミュニケーションを取るスタッフもいますが、これにはどうしても限界があります。言葉の壁がある外国人患者さんとのコミュニケーション方法にはどのようなものがあるのか、次の章で紹介していきます。
コミュニケーション方法
通訳がいない場合には、病院にある翻訳機を使用します。ただ、この翻訳機、こちらの言葉をなかなか読み取ってくれなかったり、難しい医療用語だと略すことができず、伝わりにくかったりします。いくら翻訳機があったとしても、うまく伝わらないことが多く、不便に感じることが多いです。
このような場合には、外国人の患者さんでもわかりやすいようなイラストなどを用意して、症状を訴える際に利用するなどの工夫が必要であると考えます。
習慣や文化の違い
日本人と違ってお米を食べる習慣がない外国人も多く、主食がパン食であったりすることが多いです。私が実際に経験したもので言うと、術後はお腹の動きが悪いため、徐々に食事形態を上げていくために、まずはお粥から食事を再開させるのですが、お粥を出した途端、「No!」と嫌そうな表情の外国人患者さん。ジェスチャーで下膳を訴えています。確かに、普通に生活していればお粥を食べることなどなく、味もしない"びちゃびちゃのもの"を出されても、とても食べたい気持ちにはならないのもわかります。
私たち看護師は、食事を拒否する外国人患者さんの姿を見て、「いったい外国人は、術後の食事をどうしているのだろう…」と疑問に思ったものです。まさかいきなりパンを食べさせるわけにもいかず、困りました。栄養士や医師と相談して何とか乗り切ったのですが、習慣や文化が異なるため、対応の難しさを感じました。
食習慣と言えば、国によっては、「お肉は食べられない」などの宗教上の違いや習慣もあるため、食事について対応に困ることは多いと思います。宗教によっては、輸血をできないケースも多いため、事前にこういったことの確認は重要になります。
外国人にとってより良い医療とは
医療者側として外国人の対応の難しさを感じたことで、逆に医療を受ける外人患者さん側の立場に立って考えるきっかけになりました。外国人にとってのより良い医療とは何なのか。私なりに考えてみました。
まず、外国人であっても対応を変えず、普段通りの患者さんと同じように対応すべきです。少しでも医療者側が戸惑っていると、すぐに伝わってしまい、医療を受ける側の外国人患者さんも不安に思ってしまいます。そのため、「外国人」といった見方ではなく、個人として尊重した関わりが大切になると考えます。
また、言葉がうまく伝わらなくても、表情やケアをする際のしぐさなどの非言語的なコミュニケーションで伝わる部分も多いと思うので、こういったものを大切にして関わっていくことが必要だと思います。
理想の医療現場
私の考える理想の医療現場とは、国に関係なく、誰でも最善の医療を受けることができる病院です。そのためには、国ごとに異なる文化や食習慣などを踏まえて、臨機応変な対応をできるようなシステムが整っていることです。
医療者側も外国人患者との対応に戸惑うことはありますが、外国人患者さんの対応などの教育は、受ける機会がない医療従事者がほとんどです。そのため、病院側としても、勉強会や研修などを開催したりマニュアルを作成したり、外国人の対応に関する医療従事者の理解を深める機会を提供することも大切であると考えます。今回の記事が、看護師の異動について考えるきっかけとなり、今後のより良い病院運営に繋がればと思います。