家族経営の裏側とは?スタッフたちの本音と実態
みなさんは、「家族経営」と聞くとどのようなイメージを持ちますか? 良いイメージ、悪いイメージどちらもあると思いますが、今回は、私が実際に働いていた病院で見た、家族経営の裏側、そしてそこで働いているスタッフたちの本音をご紹介します。
家族経営の裏側
私は、以前から高齢社医療に興味がありました。そこで、高齢者施設の看護師として働いてみたいと考え、当時住んでいた家の近くのデイサービスセンターで働きはじめました。そこは、クリニックが母体となっている施設で、デイサービスの他にも、特養やショートステイ、デイケアとさまざまなサービスを利用できる事業所がありました。
クリニックは家族経営で、私が働くことになったデイサービスセンターの社長の息子が、クリニックの院長兼理事長を務めていました。
年中無休、休日出勤は当たり前
当時の私は25歳。看護師経験はあっても高齢者施設での勤務は初めてだったので、なんでも挑戦! という気持ちで飛び込みました。そのため、面接の段階で勤務条件はさほど気に留めていなかったのですが、今考えると、条件を提示された時点で辞退すべきでした。そのとき提示された条件を以下に列挙します。
面接の時点で提示された条件
- 休日出勤はほぼ当たり前
- 休日出勤の手当ても微々たるもの(¥2,000程)
- 基本給が低い変わりに、手当てを沢山付ける(基本給¥140,000程、手当て→資格手当て等)
実際に働いてみると提示された条件以下の待遇で、業務内容や拘束時間等全てにおいて最悪でした。
台風でも大雪でもお構いなし
提示された条件の通り、私が働いていたデイサービスは年中無休をコンセプトに集客していたため、少々の災害などでは休みにはなりませんでした。
実際、私が働いていた3年の間に台風や大雪などの自然災害で休みになったことは1度もありません。いくら年中無休を売りにしているからといって、無理に営業した結果、送迎中に利用者やスタッフにもしものことがあっては大変です。利用者を大事に思う気持ちがあるのなら休みにするべきじゃないのか、なぜそこまでして営業するのだろうかと、スタッフは常に不満を抱えていました。ですが、ここまではまだまだ序盤にすぎなかったのです……。
利用者60名弱を看護師一人で管理
私が働いていたデイサービスセンターの定員は約40名です。それなのに、看護師一人が担当していた利用者数は約60名。一体どういうことかというと、40名という定員数は1日あたりの数字であって、「利用している人数」としては約60名だということ。それだけたくさんの利用者さんの情報を把握しておかなければならないのは、正直とても大変です。
スタッフは、介護スタッフ+OT+PT、そして看護師である私を含めて計7名程。このメンバーで、なんとかシフトで回していました。人手が少ないため、休日出勤は当たり前。休みも月7回あったらいいほう。人手不足ゆえ、看護師は、服薬管理やインシュリン投与などはもちろん、専門分野以外の業務もこなさなければならない状態でした。
毎日がハードスケジュール
ここで、簡単に1日のスケジュールをご紹介します。
7:30 | 交代制で朝の電話当番があることも。これは、一人暮らしの利用者などに電話をする業務です |
8:00 | 出勤・朝礼 |
8:15 | 送迎出発 |
8:50 | 1回目の送迎到着・2回目の送迎出発 |
9:20 | バイタル測定後、入浴・リハ開始 |
11:00 | 体操 |
11:30 | 配膳・食事介助・服薬・口腔ケア・排泄ケア |
12:15 | 45分間の休憩 |
14:00 | 体操 |
14:30 | レクリエーション |
15:15 | おやつ |
16:00 | 送迎 |
17:30 | 終礼 |
以上が基本的な1日のスケジュールとなっています。これだけを見るといたって普通のデイサービスに思えるかもしれませんが、送迎に関しては2回に分けないとドライバーも車も足りません。到着して早々バイタルを全速力で図り、息つく暇もなく入浴していただくという流れになっていました。
大体の目安として上記のように時間設定していましたが、実際時間通りできていたのは朝の朝礼ぐらいです。その他は大体前の業務が押しまくり、休憩時間も30分もないということがよくありました。
私ももちろん送迎スタッフとして駆り出されていました。
私が1番に帰ってくるとは決まっていないので、私が帰り着く前に来所されて、施設内で朝の薬を飲むことになっている利用者が複数名いた場合、介護スタッフが薬を飲ませざる負えない状況でした。
ヒヤリ・ハットの日々
ここまで読んでくださった医療従事者の方の頭によぎるのは、ヒヤリ・ハットではないでしょうか。ご想像通り、たくさんの事件が日々起きていたのでいくつかご紹介します。
実際にクリニックで起きていたこと
- 服薬忘れ
- 朝送迎時、薬の受け取り忘れ
- 見守り不足による転倒
どれも気を付けていれば防げる事故ですが、人員数的にも仕事量的にも限界だったと感じています。
その中でも一番あってはならなかったのは、服薬している薬の関係から、食べてはいけないものを出してしまい、呼吸困難、嘔吐などの症状を起こさせてしまったことです。命に別条はなかったことと、利用者のご家族が寛容な方だったことから、大事に至らなかったのが唯一の救いでした。
ちなみにこの事故は、経験の浅い新人スタッフではなく、ベテランのスタッフが起こしたもの。バタバタしている中で、つい気を付けるべきことを忘れてしまい起こした事件です。もっと余裕をもって接することができていたら、防げていたはずです。
このような事故があった日は、終礼後に報告会をして、見守りを徹底するよう注意を促していました。そのなかで、「看護師だけでなくスタッフ全員で薬の管理なども協力しておこなう」などの解決策が提示されていましたが、人手不足という原因を解決しない限り現状は悪化するばかりだとわかったことから、報告会自体をおこなわなくなり、最終的にはスタッフ同士で報告書を参照するだけになっていました。
人員は減る一方なのに仕事量は変わらない
私が今まで働いていた病院は、一時的に人員不足になるたびに病棟会議を開き、減らしても良さそうな業務に関してはどんどん減らしていました、また、余裕があるときは、みんなで協力して、特定の誰かに負担のかからない方法を考えるなどしていました。
そういった経験があったため、私は、1人ひとりの負担が少ない環境作りは当たり前と思っていました。ですがこのデイサービスセンターは違いました。年中無休であることに加え、外出企画や毎月のイベントなどにも力をいれていたため、時間は足りなくなる一方でした。
ここで、毎月おこなわれていたイベントについて簡単にご紹介します。
毎月の外食イベント
イベント関連は基本、介護スタッフの担当ですが、看護師は参加が必須。このイベントで1番大変なのが、場所探しと価格設定です。単なる食事会だとたくさん候補が出てくるところですが、なんせ高齢者ということもあり、全員が自分の足で歩けるわけではありません。車イスの方が参加するとなるとエレベーター必須、お座敷は無理、などいろんな条件を考慮する必要があります。さらに、わずかな年金を使って参加している方もいるので、高すぎない価格設定も大切。いろんな条件をクリアしながら、毎月交替制で担当して食事会を開催するので大変でした。
もちろん会場探しは休日返上でおこない、その際に試食で発生した料金等の返金もありませんでした。
毎月の季節イベント
施設内では、毎月、季節に合わせたイベントをおこなっていました。
スタッフによる出し物、利用者参加型のゲームを考案したり、手作りできるブースを用意したりと準備に時間がかかるのが難点。前の月や前年と同じ内容にならないよう、毎月担当スタッフが必死に案を練っていました。
季節イベントに関してももちろん、勤務中に準備することは不可能であることから、全ての業務終了後に準備をおこなっていました。残業手当は無く、当日イベント終了後に社長からねぎらいの一言があるだけでした。
母体が無くなる?スタッフも総辞職
私が働き出して3年が経とうとしていたとき、驚くべき事件がありました。その発端として、母体であるクリニックの経営がうまくいかなくなっているという連絡を受けたのです。結果、施設内にあったデイケアセンターがなくなり、そこのスタッフと利用者は、私が働いていたデイサービスセンターのほうに流れてきました。
知らされたのは1ヶ月前
デイケアセンターのスタッフも、デイサービスセンターのスタッフも、母体がなくなることを知らされたのは1ヶ月前でした。なぜぎりぎりだったかというと、「スタッフと利用者をデイサービスセンターに移せば丸く収まるだろう」と社長が勝手に考えていたからです。
また、デイケアセンターのスタッフたちに転職活動をする時間的余裕を与えないことで、問答無用でデイサービスセンターに移行させる思惑だったのかと思います。しかし結局、デイケアセンターのスタッフは誰もデイサービスセンターに移ってくることはなく、全員辞職しました。
ここでおわかりいただけると思いますが、利用者だけが増え、スタッフは1人も増えていないのです。ここからまた地獄の日々の始まりでした。
定員40名のところ実際は...…
デイサービスセンターの利用者定員数は40名ほどでしたが、デイケアセンターの利用者も加わったことで総利用者数は60名ほどにまで膨れ上がっていました。
これはさすがに経営的によくないとスタッフたちは思ったので、さすがに管理者から社長に相談。すると、返ってきた答えは、利用者を減らすどころか定員を60名に増やすというものでした。
お給料、ボーナスは減る一方
母体もなくなり、利用者も増え、仕事量も倍に。ですが一向にスタッフは増えず日々疲れ果てていました。そのころは看護師の私でさえも休みは7日。介護スタッフは5~6日。管理者は4日程でした。
これだけ頑張っているのだからお給料もボーナスも増えて当たり前と思っていましたが、現実は全く違いました。なんと増えるばかりか減る一方だったのです。毎月社長から手渡しで給与明細をいただくのですが、その際に社長の方から、「毎日遅くまで働いてくれてありがとうございます。お給料ももう少し上げて上げたいんだけど、病院もなくなって経営が少しうまくいってないので少しの間我慢してください」と言われました。みんな唖然としていました。
以前と比べて仕事量は倍になり、休みは減り、残業も当たり前の状態になっているにも関わらず私たちにメリットはなにもない。スタッフ全員限界で、管理者も社長とスタッフとの板挟みになり鬱になってしまいました。
2ヶ月程経って、管理者が療養するにあたってさらに忙しくなり、もう私はここでいくら身を削ったところで将来が見えないと思い辞めることを決意しました。
家族経営には難点があることがあるので要注意
このようなケースはごくまれかもしれません。しかし、知人の看護師も家族経営のクリニックで働いていますが、やはりいろんな面でずさんさが目立つと話しています。私自身、辞めるときも凄く時間がかかって苦労していましたが、今となっては良い経験だったと思っています。