医師のパワハラに耐えられなくなったスタッフの行動
患者さんの治療をおこなうのは、医師だけだと思われがちですが、実際には看護師、薬剤師、臨床検査技師など多くの医療従事者が関わっています。
治療は医師がおこないますし、薬剤を使う治療や検査は、医師の指示なしに勝手におこなうことじゃできません。
そのため、患者さんの治療をおこなううえでは、医師を含めた医療従事者の連携が必要です。
医師や看護師、薬剤師などが密に連携を取って初めて、患者さんは退院に向かうことができるのです。
そのため、入院患者をスムーズに退院させるにあたって最も重要なのが、医師、看護師のコミュニケーションといえます。
医師が偉そうにしているのはなぜ?
患者さんの中にも医療従事者の中にも、「なんであの医者は、あんなに偉そうにしているか?」と感じたことがある人はいるのではないでしょうか?
外来診察でも、上から目線で患者さんに話をしたり、看護師に辛く当たったりすることもあります。
わたし自身も「何であんなに偉そうにしているのだろう」と感じたことはたくさんあります。
医師は大学に6年間通う必要がありますし、学費もたくさんかかっているでしょう。
難関である医師国家試験に合格し、実際に医療現場に入っても、研修医期間は長く、一人前の医師になるまで何年もかかります。
その間は給料も安く、医療現場でたくさん経験します。
また、本業の合間に体力を削りながら、当直のバイトをしすることもあります。
医療従事者の中でも、これほど休みなく働いているのは医師だけだと思います。
そのことは大変立派です。
しかし、たくさんの命を助け、「先生」と言われるようになり、「腕がいい」「神の手」「先生は神様」とも崇められるようになってくると、次第に傲慢になってくる医師もいるのです。
医療従事者の中でも医師はコミュニケーションが苦手
会話する患者数が一番多い医療従事者は医師です。
しかし、これはあくまでも人数の話であり、1人ひとりと話す時間はとても短いです。
病院に来て何時間も待ったのに、診察時間は5分もかからないなんてことも多々あります。
さらに、診察中に患者さんの方も見ることもなく、「今日はどうなさいました」「薬出しときますね」「これで治らないようだったらまた来てください」などと言って外来診察が終了することもあります。
医師が一方的に話をし、1人ひとりの患者さんとコミュニケーションを 取ろうとしない場合があるのです。
医師は、毎日50~80人という患者さんを診察しなくてはなりません。
1人ひとりの患者さんに時間をかけていられなのもわかります。
しかし、上から目線で一方的に話をしては、言葉のキャッチボールにならず、コミュニケーションがうまくいくわけはありません。
医師は患者さんとのトラブルも多い
医師は、患者さんとのトラブルも少なくありません。
患者さんは、病気に不安を抱え治療をおこないます。
しかし、医師はその不安を取り除くことまでは意識していない場合が多いです。
そのため、医師からの説明の後、看護師が患者さんに、治療内容について理解ができたか確認しますが「よくわからなかった」という返事であることもよくあります。
また、患者さんからも「入院してから全然、先生の説明がないんだけど」「今どんな治療をやっているんだ」など治療経過の説明がないことに対して、患者やその家族からクレームが入ることもあります。
中には、患者やその家族の意向を無視して、勝手に治療を進めようとする医師もいるため、ときにはトラブルに発展することもあります。
医療従事者の中で医師と最もコミュニケーションを取るのは看護師
医療従事者の中でも、医師と話す機会が多いのは看護師になります。
検査技師や理学療法士なども医師と話すことはありますが、患者さんがいるときだけであり、場合によっては、全く話さないこともあります。
しかし、看護師は常に、患者さんが生活している病棟にいます。
そのため、患者さんの状態を一番身近で観察して把握しているのが看護師ということになります。そうなると、患者の状態を報告するためにも、医師と密にコミュニケーションを取ることが必要になります。
医師や患者に怒鳴られることが多い看護師
患者さんと常に関わっている看護師は、医師とのパイプ役となり報告することが多くあります。
患者さんは、医師と話をしたいと常に思っています。
治療してくれている医師と話すことで安心するからです。
しかし、全く医師が来ないと、患者さんは不安とイライラが大きくなり、看護師にも「先生から話がないなんてどうなっているんだ」と怒鳴ることもあります。
そのことを医師に伝えると、「今は話す時期ではない」「前に話しただろ」と言われ、患者さんにそのことを伝えるとまた、患者さんは看護師にあたるのです。
そのため、いつも患者さんの希望には耳を傾け、医師にもしっかりと報告したうえで治療方針を理解していないと、看護師のほうが患者やその家族から怒られることになります。
医師のパワハラ問題
わたしが実際に関わった医師の中に、パワハラで問題となったことがある医師がいます。
その医師は、
- 話をかけても無視をする
- あいさつは絶対にしない
- 指示を確認しても「話しかけるな」と返されるため確認ができない
- 確認しても「そんなことはどうでもいい」と言われる
- 電話すると第一声が「うるさい、電話してくるな」
- 「お前には関係ない」
- 「今、そのことを患者に話す時期ではない」
- 処置の介助にも「来るな」と言われる
- 指示を依頼しても「後で出すから」と言って一向に指示を出さない
などを毎日のように繰り返すのです。
たとえば、いくら看護師が医師に確認して看護をおこなおうとしても、医師がコミュニケーションを取るつもりがなければ、スムーズには進めません。
あまつさえ、指示も出さず医師が帰ってしまうこともあるのです。
そのため、看護師は患者さんが困らないように、怒られる覚悟で医師の携帯へ連絡して指示を仰ぎ、残業して治療を進めていくのです。
その医師を辞めさせられない理由とは
このようなパワハラが何年も続きました。
わたしも含め、この医師と仕事をしたくないと思っていた看護師がほとんどです。
病院側もそのことを認識していました。
そのため、病院側もいろいろと策は練っていましたが、医師不足であったため、容易に辞めさせる決断ができなかったのです。
辞めさせてすぐに新しい医師が来るわけでもありません。
その医師は外科医で手術もおこなうため、その医師を辞めさせてしまうと、病院の収益に関わってくるからです。
自分たちの給料にも関わってくるため、状況を理解していながら我慢することにしたのです。
看護師の我慢の限界
医師のパワハラは治らず、エスカレートする一方でした。
その医師と仕事をし始めて10年が経った頃です。
医師の対応に看護師も限界を迎えした。
看護師としての仕事は好きなのに、全く仕事が楽しめず、病棟の雰囲気も悪くなってきたのです。
それを感じとった看護責任者は会議を開くことにしました。
パワハラ問題で起こした看護師の行動
会議で問題点として挙げられたのが、その医師を辞めさせることができないという現実です。
その医師を辞めさせてしまえば、給料面で看護師だけではなく病院職員全員に影響が出てくる可能性があるからです。
その医師もそのことを知っていたと思います。
だから、「自分を辞めさせることはできない」と考えていたかもしれません。
では、どのようにしたらよいのか話し合った結果、やはりその医師に変わってもらうしかないという結論になったのです。
しかし、何十年も今のような性格で生きてきた人を変えることはとても難しいということです。
ですが、このままにしておくわけにはいきません。
そこで看護師一同は、次にパワハラ行動が病棟で見られたら、一斉に退職することにしたのです。
ですが、口だけだと思われかねません。
本気であることを示さないといけないのです。
病棟責任者は、事務所に行って全員分の退職届用紙をもらって全員が書面したのです。
これには病院側も驚いたでしょう。
事務長や院長はすぐに動きました。
「次、パワハラの報告があったら即解雇」とその医師にも告げたのです。
しかし、いくら解雇を伝えてとしても、一時的に変わってもらうだけでは意味がないと考えた病棟責任者は書面にして、常にその医師が見える位置に貼り付けたのです。
パワハラ医師が激変
解雇の通告を受けた医師は、翌日から対応が変わりました。
話かけると答えるようになり、指示にもすぐに対応し、怒鳴らなくなりました。
まだ通告を受けたばかりで、またいつ元に戻るかわからないと考えていましたが、1年近くなった今もパワハラを受けた報告はなく、病棟看護師も楽しく仕事をしています。
医師のパワハラ問題が問題視されるまで、長い年月がかかりましたが、看護師の勇気ある行動が病院全体に良い影響を与えたとわたしは思っています。