医学部での勉強って、医者になってからは意味がない?
医学部6年間の勉強量は膨大である
医学部6年間の勉強量は膨大になります。2年生?3年生にかけては基礎医学を習います。解剖学から始まり、生理学、生化学、細菌学、組織学と20近い講座を習得しないといけません。さらに、4年生以降の臨床医学では、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、脳神経内科外科と、基礎医学よりも多くの講座を受けます。そして、すべての講座で試験に受からないと医学部の卒業資格が得られません。
医師国家試験突破は難関である
医学部を卒業しても医者にはなれません。なぜならば、医師国家試験を合格しないと医者になれないからです。医師国家試験の合格率は80%近くあります。合格率だけをみると、ほとんどの人が合格する印象です。しかし、実際に医師国家試験の勉強や試験を受けてみると、大変難しいことがわかります。多くの医学生は、卒業試験や臨床実習の合間をぬって、半年?1年以上かけて医師国家試験対策をおこないます。
医学部の勉強は医者になってからは通用しない?
医学部生の中には、先輩にこう言われることがあります。「医学部の勉強は、医者になってからまったく役立たない」。果たしてこれは正解でしょうか。医者10年目の筆者の率直な感想を述べていきます。
「医学部の勉強は、医者になってから役立たない」は半分正解で、半分不正解
「医学部の勉強は、医者になってから役立たない」は半分正解で、半分不正解です。医者の仕事をしていて、そう実感します。
自分自身が専門医として医療を提供している分野は、医師国家試験の内容以上のことを要求されます。専門性が高くなればなるほど、教科書にはまだ載っていない最先端の知識が必要になります。論文レベルで答えがまだ出ていない事柄について、患者さんに説明したり治療したりもします。
座学で学べないことは無数にある
外科系であれば特に、座学で学べることは限られます。スポーツと一緒で、実際に手を動かして、体で覚えることが多くあります。内科であっても、薬の使用量の微妙な調整は、患者さんの身長体重や臓器機能の評価をしつつ微調整が必要です。また、抗がん剤治療でも、薬剤の使用のタイミングについては、医学生のうちには習いません。
医学部で習う疾患と実際によく診る疾患に差がある
医師国家試験のために勉強する疾患は、病態が難しいものや、反対にはっきりと病態がわかっている疾患が多くあります。また、実際に出会う頻度と関係なく一律に勉強をします。一方で、医者になって診療に立つと、症候のみの診断に留まったり、診断が確定する前に病状が改善したりすることも多くあります。最終診断がつかないことも多くあります。
診療のリズムやコツは専攻科によって異なる
専攻科によって、押さえるべきポイントには違いが多くあります。例えば、循環器内科であれば、胸痛症状は特に緊急性を伴います。心筋梗塞を起こしていれば、分、秒単位で治療が急がれます。一方で、消化器内科は胃カメラや大腸カメラ検査にて、早期がんを見逃さないように細心の注意を払います。整形外科であれば、緊急手術が必要なのか待機手術とするのか、判断が問われます。
医学部の勉強が役立つ部分は、他科との相談や連携
一方で、医師国家試験の勉強が後々まで役立つところは、他科との相談や連携をとることに関してです。主治医として患者さんの治療にあたっていると、自分の専門外のこともよく相談されます。その際、他科にコンサルテーションを出しますが、病歴や疑っている病状について記載が必要です。この際に病気や病態を思い浮かべるのに、医学部で得た知識が役立ちます。
医学部で習った知識は、医者の間の共通言語
どんなにかけ離れた分野の医療で仕事をしていても、すべての医者が医師国家試験に合格をしています。つまり、医師国家試験で得た知識は、どの医者も共有しています。その知識が医者間の共通言語となって、他科との相談や連携が成り立っています。
ときには、希少な病気を診ることがある
医学部では、何十万人に1人しかならない病気についても学びます。そういった疾患は、日常診療をしていて、まず出会うことはありません。ただ、医者の経験年数が長くなれば、ときに出会うことがあります。そういった際、医学部で勉強した知識をひもといて診療に当たることはあります。
大学院生として、基礎実験をすることがある
臨床科目ならば、医者をしていて知識を活用することはあります。一方で、2年生?3年生で習う基礎科目は、医者をしていて活用することは少ないです。ただし、大学院に進学したときに、基礎研究をすることがあります。その際に、昔お世話になった基礎講座の教室で研究をすることもありえます。そこで改めて、医学生中に習った基礎医学の知識が必要となることがあります。
医学部在学中に学んだことを現場ですぐに活用するのは難しいですが、長い医者人生を考えると、医者の仕事の基盤となっていると考えられます。